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「洗濯とかでもさ、とにかく放り込めばいいって感じで。全然、回ってなくて洗えて
ないのに、気にしないで干しちゃう、とかさ」
「ほら、1回、拓哉兄貴の超お気に入りのシャツ、乾燥機にかけちゃった事があって、
凄い縮んじゃってさ、あん時はさすがに取っ組み合いのケンカになりそうで怖かったよね」
「ちゃんとやれよっ!!って拓哉兄貴が怒ってさ、一生懸命やってる!って吾郎ちゃんが
言い返してさ。一生懸命やってたって、ちゃんと出来なきゃ意味ねぇんだよ!って、拓哉
兄貴のセリフに、何でも器用にこなせる拓哉兄貴に俺の気持ちとか絶対にわかりっこない!!
とか吾郎ちゃんが喚いてさ」
それまでずっとふざけた感じだった慎吾の表情に、すぅっと影が差す。
「そうそう。泣きながらさ、拓哉兄貴に飛び掛ってく吾郎さん見てて、何か、吾郎さん
ばっかりに負担かけてたんじゃないか、って、俺、その時になって初めて気づいた」
剛もそれにつられた訳でもねぇんだろうけど、すげぇ、神妙な顔つきになっちまって。
「うん・・・・まぁ、俺も。そう言われてみれば、吾郎ちゃんの指とか、いつも絆創膏
だらけだったな、とか」
「ちっちゃい火傷の後とかもあちこちにあってさ」
「それまで、拓哉兄貴が卒業するまでの半年ぐらいの間はさ、拓哉兄貴がメインでうちの
事やってくれてて、拓哉兄貴は器用な人だったからさ、それなりに回ってて。それを
拓哉兄貴が高校卒業して就職したから、今度は吾郎ちゃんが引き継いだ、みたいな形に
なったんだけど。吾郎ちゃん拓哉兄貴みたいに器用な人じゃなかったから・・・・・・
一応、分担制になってたけど、俺もつよぽんもクラブとかを理由にして、しょっちゅう、
さぼっちゃったしねぇ」
その頃の事を思い出すように口にした慎吾の言葉に、剛も後を継いで。
「うん、俺達、酷いヤツだったよね。学校行きながらって言うのは吾郎さんもおんなじ
だったのにさ」
「けどよ、こいつ、意外な事に負けず嫌いでよ、そのうち、料理とかもすげー、腕あげて、
うちの事も段々、それなりにこなせるようになって来て。俺、ほんとマジで吾郎がこんなに
まともにうちの事、やってくれるようになる、とか想像もしてなくて・・・・・今、すげー
感謝してるし、尊敬もしてる」
真っ直ぐ、拓哉兄貴に見詰められて、真顔でそんなセリフ、言われて、吾郎はちょっと
目ぇうるうるだとかさせてて。
やー・・・・言う方も言う方だけどよ、言われる方も言われる方、っつーか。
恥ずかしくねーのかよ、どっちもよ。
感動して目ぇうるうるさせてんじゃねー、っつーの。
「ほんとだよねぇ。俺も、あんましこういう事、口にしたくないけどさ、吾郎ちゃんの
事、結構、見直したって言うか。案外、やるじゃん、みたいな?」
ふざけた口調で、でも、意外にまともな顔つきで慎吾がそんなセリフを口にする。
「吾郎さんは意外に頑張り屋さんだもん。俺もそういうの、見習いたいって思う時、あるよ」
剛も。元々、吾郎崇拝者だけど、いつもにも増して、その表情は吾郎を崇めてて。
「そんな・・・急に褒めたって何も出ないんだからね!あっ!何?もしかして、君達、
原稿料振り込まれた事知ってて、そんな事、話したりしてる、とか言わないよねっ?!」
「えっ?!原稿料、入ったの?!どんぐらい?!何か奢ってくれんの?!俺ねぇ、焼肉
食べ放題がいいっ!!」
「あー、いいねぇ。韓国焼肉とかどう?!美味しい店があるらしいよ」
「へぇ。そりゃ、いいな。いつにする?俺が仕事が休みの日で・・・・・」
「って、嘘っ?!何、知らなかったのっ?!じゃあ、どうして?!何で、いきなりそんな
話とかになってんのっ?!」
完全に墓穴を掘った吾郎が食ってかかる。
そんな兄貴達のやり取りを、ただ、眺めながら。
ふーん、そうなんか、って。
俺の知らねぇとこで、そんな風に色んな葛藤だとか、大変な事だとかあったんだ、って。
今じゃ当たり前に、ふっつーに家の事とかこなしてる吾郎が、そんな風に苦労してた事も
あったなんて。
言われてみりゃ、それは当たり前の事で。
それまで、当然、母ちゃんがやってくれてただろう事を全部、自分らで、とか。
大変じゃねぇはずなくて。
しかも、俺みてぇなお荷物まで抱えちまって・・・・・
・・・・・吾郎のヤツ、不貞腐れてたからな。拗ねてやがったっつーか。俺が強引にお前を
自分達で育てるって決めた事、かなり気に入らなかったみてぇだったしな・・・・・
風呂場で聞いた拓哉兄貴のセリフが不意に蘇って胸が詰まった。
吾郎が笑顔見せなくなったのは、そのせいなんか?って・・・・
俺のせいで吾郎は・・・・・
ずきずきと胸の中が痛んで・・・・・・
ずっと俯いたままの俺の視界の中に、唐突に吾郎の顔が飛び込んで来て。
「まーくん?どうしたの?気分、悪い?何か顔色悪いよ。また、熱とか?」
吾郎の掌がデコを押さえて来る。そんな吾郎のほっそい指、掴んで手を離させながら。
「熱はないみたいだけど・・・・お弁当の事、気にしてんの?もしかして?」
そうだっけ・・・・元はと言えば、俺が弁当に入ってた野菜、残した事から始まったん
だよな、この話。
吾郎がそんな風に大変な目ぇして作ってくれてるとか知んなくて、俺、平気で残して。
その事、バレねぇように自分で残したやつ、捨てようとかもしてて・・・・・
俺って・・・・サイテー・・・・・
ぎゅ、っと目ぇ瞑ったら目の端から何か零れて。
「ちょ?まーくん?ごめん。ごめんね?食べられないの分かってて、ムリに食べさせよう
とかして。しかも、その事、こんな風にみんなの前でさ、責めるような事しちゃって。
ほんとに」
ふわり、と吾郎の匂いが近くなって、吾郎のぬくもりに包まれる。
「・・・・ちげー」
とんでもねぇ勘違いしやがる吾郎に・・・・
なんでおめぇが悪者になってんだよ、って・・・・
俺じゃん・・・・
俺が全部、悪ぃんじゃん・・・・
「まーくんももう少ししたら学校だし、そうしたら、給食とか始まって・・・食べられない
ものとかあったら、まーくんが困るんじゃないか、とか・・・・先生によってはさ、全部
食べるまで残して食べさせる先生とかも居るみたいだし・・・最近はアレルギーとかの
問題でそういう事も随分、減ったみたいだけど・・・・そんなちっぽけな事でもさ、学校、
嫌になるきっかけになっちゃったりだとかしたら可哀想だしとか・・・・つまんない心配
しちゃって・・・・・正直、ちょっと焦ってた部分、あって・・・・ほんと、ごめんね」
・・・・・なんで?なんでそんな、俺の心配ばっかしてんだよ?
ばっかじゃねぇの・・・・・
俺、そんな・・・・心配してもらえるようなヤツじゃねぇじゃん・・・・
我が儘で、素直じゃなくて、可愛げなくて、兄貴達を兄貴達とも思わずに偉そうにしてたり
だとかして・・・・・
自分じゃなぁんも出来ねぇのに、いっちょまえのつもりで・・・・・
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