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バァーーーーーーーン!!!
マンガによく使われる擬音語を伴って、全く何の前触れもなく、
凄い勢いでドアが開いた。
と、ほとんど同時にオレは胸元に息苦しさを感じた。
何の事は無い、クリフのヤツがオレの胸座を掴んでいた。
こいつもやっぱ、男なんだよな・ ・ ・
あまりに突然のことで、オレは妙な感心をしてしまう。
「訳を聞かせてもらおうか・ ・ ・」
多分、怒りを押さえているせいなんだろう、ヤツの声は酷く低く、
少しかすれていた。
声を出そうとして、あまりの息苦しさにオレは少し、青ざめた。
オレのそんな表情はわりとストレートにヤツに伝わったんだろう。
ヤツはオレを掴んでいる手の力を少しだけ緩めた。
そう・ ・ ・緩めただけで、相変わらず、オレの胸座を掴んでいることには
違いなかった。
「・ ・ ・な、何だよ、突然・ ・ ・!」
ようやく声が出せた・ ・ ・
驚きの後にオレの中に訪れた感情は怒り。
確かに、怒りなんだけど、想像が全くつかなかったわけではなかったので
今一つ声にも力がこもらない。
「言われないと、わからない?」
挑発するような、挑みかかるような目。怒りを含んだ・ ・ ・
けれど、底冷えするような冷たい瞳。
「・ ・ ・いや・ ・ ・」
圧倒されて息を呑む。
そして、ヤツには気付かれないように、そっとため息を一つ・ ・ ・
ヤッパリ・ ・ ・ヤツノトコロヘ、イッタノカ・ ・ ・
ヤツが般若のような形相でドアを開け放った瞬間から、
いや、もしかしたらその前から、こんなシーンをオレは多分、
想像出来ていたのかも知れない・ ・ ・
今朝、突然、クレアさんがうちを飛び出して行ってしまった、
あの瞬間から・ ・ ・
「訳も何も・ ・ ・」
観念して、しぶしぶ口を開く。
「・ ・ ・突然、出て行っちゃったんだよ」
シュッ!!
空を切る音・ ・ ・を実際にほんとに耳元で聞いたのは、
もしかしたら生まれて初めてかもしれない・ ・ ・
なんて、またも妙なことに感心しながら・ ・ ・
オレは実際には手の平にジットリと汗をかいていた。
冷や汗・ ・ ・だよな・ ・ ・
ヤツのこぶしは実に見事にオレの顔面すれすれのところで
止められてはいたものの・ ・ ・
「・ ・ ・ふざけるな・ ・ ・!!」
ヤツの珍しく威圧的なセリフにさすがのオレも、ここに来てようやく
少しだけ態勢を立て直す気力が沸いてきた。
強引にヤツの手を外させる。
だいたい、基本的に腕力ならオレの方が上なんだから。
「やっぱり、お前のとこに行ったのか?」
オレはまずそのことを確認したかった。
多分、そうじゃないか・ ・ ・とは予想していたけれど、
正直、そんなはずはない・ ・ ・と何度も心の底では否定していた。
けれど、現実にコイツがオレの目の前にいるということは・ ・ ・
最後まで言い終わるか終わらないうちに
ドンッ!!という鈍い音と同時にオレは後頭部と言わず、
背中と言わず・ ・ ・激しい痛みを感じていた。
両手でオレの襟ぐりを掴んで、クリフがオレを壁に押しつけていた。
押しつけて?いや、そんなかわいいもんじゃなくて、
叩きつけて!!それぐらいの勢いで。
あまりに一瞬のことで息が詰まる。
「そんなこと、本気で、聞いてるわけじゃ、ないよね」
まっすぐオレの目を見詰めて、相変わらず怒りを含んだ鋭い瞳で・ ・ ・
ヤツは一言、一言、区切るように言った。
「本気も何も・ ・ ・だから、お前、ここに来たんだろ?」
痛みと息苦しさにあえぐようにオレは反論する。
クリフは何を思ったのか不意にオレを掴んでいた手を離した。
急に空気が肺の中に入り込んできた感じがして、
オレは2、3度咳き込む。
そして、しばらくの間呼吸を整えてから、オレはまた、口を開いた。
「だって、そうなんだろ・ ・ ・
大体、結婚する前からクレアさん、お前のこと、
随分、頼りにしてたみたいだし・ ・ ・
どういう理由で出て行ったんだか、さっぱり、
見当もつかないんだよ、正直なとこ・ ・ ・
だから・ ・ ・たぶん、お前のとこに相談に行ったんだろう・ ・ ・
とは思ってた・ ・ ・」
「・ ・ ・そうなんだ・ ・ ・?」
挑発するような皮肉な口調でヤツは言った。
「グレイがそんなに寛大な人間だとは知らなかったよ。
自分の奥さんが他の男のところに相談に行っても、平気なんだ」
「そんな言い方するなよ・ ・ ・しょうがないだろ・ ・ ・
オレじゃどうしてあげることも出来ないんだろうし・ ・ ・
オレのことで何か不満があって、そのことでお前のとこに
相談に行ったんだとしたら、オレにどうしろって言うんだよ」
オレは自分で言いながら、どんどん気分がブルーになっていく。
そう・ ・ ・多分、そうなんだろう・ ・ ・
彼女はオレに、もしくは、オレとの生活に何か不満があって、
そのことを、でも、直接オレには言えずに、か、言わずに・ ・ ・
思い悩んで・ ・ ・相談に行ったんだろう・ ・ ・
「で・ ・ ・彼女に相談されて、ボクが彼女をなぐさめたり、なだめたり、
励ましたりするのを、グレイは別に構わないわけだね。ふーん・ ・ ・」
ヤツの表情からだんだん怒りの色が薄れて行き、代わりに嘲るような
人をバカにするような傲慢な表情が覗いた。
「含みのある言い方、やめろよ。彼女が出て行っただけでも
十分、滅入ってるんだから・ ・ ・」
「じゃぁ、ほんとにいいんだね?!ボクがなぐさめたりしても!!」
ヤツは明らかに苛立っている。
「いい加減にしろよ!!オレに一体、どうしろって言うんだ?!」
オレもだんだん腹が立ってきた。
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