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「彼女、ボクのところになんか、来てないよ」
突然、ヤツは全くオレの予想を裏切る爆弾発言をした。
?????
「そんなこと、するわけないじゃないか、彼女が・ ・ ・
もし、グレイ、本気でそう思ってたんなら、
ボクももう、遠慮なんてしないから」
「どういうことだよ・ ・ ・お前のとこに相談に行ったんだろ・ ・ ・
で、お前としては黙ってられなくて、怒鳴り込んできた・ ・ ・
違うのか?」
クリフは悲しげに瞳をユラユラ揺らしながら、それでも、
じっとオレを見つめて、深い深いため息をついた。
「本気で考えてたんだ・ ・ ・そんなバカなこと・ ・ ・」
そして・ ・ ・
「ボクは・ ・ ・クレアさんを見かけただけだよ、マザーズヒルの池のほとりで。
すごく淋しそうで・ ・ ・泣いてるみたいだった・ ・ ・
訳を聞こうかとも思ったけど・ ・ ・でも、そうしたら、彼女、言いたくなくても
話さなくちゃいけなくなるだろうし・ ・ ・そういうの、なんか、まずいでしょ、
やっぱり・ ・ ・なんか、弱みに付け込むみたいだし・ ・ ・
で、訳を聞こうと思って、こっちに来たんだよ」
そう言って、また、ため息をついた。
って・ ・ ・違うだろ・ ・ ・
そんな優雅な、のんきな雰囲気じゃなかっただろ、お前は?!
「訳を聞くって・ ・ ・そんな雰囲気じゃなかっただろーが!!」
一瞬のうちに、今までの様々なヤツの振る舞いが脳裏を駆け巡る。
「そりゃあ・ ・ ・クレアさんが一人で泣いてるとこなんか見て、
冷静でいられるわけないだろ」
ヤツは全然悪びれる様子もなく。
「そう言えば今日は水曜だね。案外、ドクターに相談するのかな。
ボクなんかよりはよっぽど、大人だし、頼りになりそうだもんね」
クリフの瞳に悪魔のような笑みが浮かぶ。
「たまたまボクは、彼女に直接アクションを起こさなかったけど、
他の人だとどうなんだろうね?泣いてる彼女を優しくなぐさめてるうちに
つい、ふらふらっと・ ・ ・」
「わーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
「他の誰かが彼女をなぐさめる前に、自分で行った方がいいんじゃないの?」
クリフに言われるまでもなく・ ・ ・
「ねえ、グレイ、こんなこと言うの、なんだけどさ・ ・ ・
グレイがシャイなんだってことは知ってるけど・ ・ ・
でも、言わなくちゃ伝わらないこと、あるよ。
それに、聞かなきゃわかんないと思うけど、いくら、夫婦でも・ ・ ・
何で出て行っちゃったのかわかんないなら、ちゃんと聞かないとダメだよ」
おぉ・ ・ ・クリフがオレに意見してる・ ・ ・
いつでも何かっちゃオレを頼ってたあのクリフが・ ・ ・
現実に目の前で繰り広げられているこの展開に、純粋に驚いているオレ。
けど・ ・ ・まぁ・ ・ ・一番、オレ達のこと、心配してくれてるのも
他ならぬコイツだろうし・ ・ ・
マザーズヒルの池のほとりに、すぐさま駆け付けようと、
立ち上がったオレの背中にクリフは
「結婚式のときのみんなからのメッセージカード、忘れたわけじゃないよね。
クレアさんのこと泣かさない方がいいよ。
今日は見かけたのが、たまたまボクだったから良かったけど、
みんな、本気なんだからね・ ・ ・」
と不穏な言葉を投げつけ、思わず振り返ったオレに、たいそう魅惑的に
微笑んでみせたのだった。
「メッセージカード」そのセリフに、オレはまざまざとあの日の
いやーな感覚を思い出していた。
せっかくの「晴れの日」だというのに・ ・ ・
あろうことか・ ・ ・
ミネラルタウンの若手全員から不穏なメッセージ届いた。
「クレアさんがお前(つまり、オレ)なんかと結婚するのは納得がいかない。
彼女をもし、万が一にも泣かせるようなことがあれば
そのときは、それなりの覚悟をしておけ・ ・ ・」
それぞれに言い回しは違ったけれど、どう考えても全員で示し合わせて
書いたとしか思えないような、そっくりの内容のメッセージ。
誰一人として「おめでとう」とすら書いてないところが
怖くて、切なくて・ ・ ・本当にその場から逃げ出したくなったのを
今でもはっきりと覚えている。
どうして、オレの奥さんは・ ・ ・こんなにみんなに
愛されてしまっているんだろう・ ・ ・
いや、彼女の魅力はオレが一番、良く分かってることではあるけれど・ ・ ・
ガックシうな垂れてしまったオレを励ますようにクリフは言葉を続けた。
「グレイ、分かってる?
クレアさんは他の誰でもない、グレイを選んだんだってこと。
クレアさんをなぐさめてあげられるのも、なだめてあげられるのも、
励ましてあげられるのも、グレイ一人だってこと。
一番、大切なこと、見失ってるんじゃない?」
コイツに言われて気がつくって言うのも、なんだか
嫌な気分だけど・ ・ ・
でも・ ・ ・
そうなんだろう・ ・ ・
オレはいつも心のどこかで、どうして彼女がオレなんかのことを
選んでくれたのか、信じられずにいた。
なんだか夢を見ているような気もしたし・ ・ ・
それは彼女と暮らし始めてからも変わることはなくて・ ・ ・
けれど、そのことを彼女に聞くことは出来なくて・ ・ ・
「早く行ってあげたら。彼女、待ってると思うよ。
グレイが迎えに来るの」
オレは夢中で駆け出していた。
そうなんだ。誰が何と言おうが、彼女がオレを選んでくれたことには
変わりがなくて、オレはそれで十分なんだ。
いつも、自分に自信が持てなくて、なんとなく逃げ腰になっているのを
クレアさんは気付いていたのかもしれない・ ・ ・
だから・ ・ ・
今日こそ、ちゃんと伝えよう。
オレはクレアさんと結婚できて、幸せで、
オレはクレアさんが、誰よりも好きなんだって。
結婚してからこんなこと言うのも、ヘンだと思われるかも
知れないけど・ ・ ・
笑われるかも知れないけど・ ・ ・
今日こそ、ちゃんと・ ・ ・
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