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今日は慌てて帰らなくても大丈夫だよね・ ・ ・
グレイがやってくれるって言ってたし・ ・ ・
ボクは果樹園の仕事を終えて、久し振りに教会に向かった。
彼と一緒に住み始める前は毎日のように通っていたけど、
一緒に住むようになってからは、やらなけりゃならないことが
山のように増えて、とてもそんな時間が取れずにいた。
今までは食事の支度も、部屋の掃除も全部、ランちゃんやダッドさんが
やってくれてたから(宿屋に宿泊してたんだから、当たり前のことなんだけど)
8時頃まで教会にいても全然平気だったけど、今はそんなことをしていたら
ご飯も食べられないし、部屋だって、一日やそこらだったら
掃除なんてしなくても平気だけど、何日もって訳にはいかないし・ ・ ・
で、果樹園の仕事が終わると同時に家に帰って、そういうことをしなきゃ
ならなくなってて・ ・ ・
グレイは・ ・ ・ まぁ・ ・ ・ 疲れてるのもあるんだろうけど・ ・ ・
そういうことはあまり得意じゃないみたいで、ほとんどやっては
くれないし・ ・ ・ ・
「おや、クリフ、久し振りですね」
カーターさんはいつもと変わらない、穏やかな笑顔でボクを迎えてくれた。
「どうですか、新しい暮らしは?少しは落ちつきましたか?」
「はい・ ・ ・ まぁ・ ・ ・ 」
ボクは少し言葉を濁して・ ・ ・
「何事も経験ですよ。グレイとは気も合うでしょうし、また、
楽しいことも出てきますよ」
イマイチ不満げなボクの雰囲気を察して、カーターさんは諭すように
話してくれる。
「ええ・ ・ ・ そうですね」
肯いてボクは本当に久し振りに、静かな祈りに入ったのだった。
グレイがやってくれてるとは思うけど・ ・ ・
でも、やっぱり気になって・ ・ ・
ボクはお祈りもそこそこに家に帰った。
けれど、家のすぐ近くまで来ると、辺りにはなんとも言えないいい匂いが
漂っていて、ボクは、もしかしたらグレイが何もやってくれて
ないかも・ ・ ・ と疑ってしまったことを激しく後悔していた。
「ただいま」
部屋の中はきちんと片付いていて、暖炉の灯がホンワカとあたりを
温かい空気で包んでいる。
ボクはホッとして上着をクローゼットに仕舞いながら、意外にものに
え・ ・ ・ ?と目を奪われた。
暖炉の前のカウチにゆったりと寝そべって、テレビを眺めている・ ・ ・
のは・ ・ ・ グレイ?!
え?
じゃあ、今、キッチンでいい香りのする料理を支度してくれているのは・ ・ ・
恐る恐るキッチンを覗き込んで、ボクは
「うわっ!!」
と力一杯叫んでしまった。
そこでお料理をしてくれていたのは、他でもないクレアさん、だった。
「あっ、クリフくん、お帰りなさい。寒かったでしょ。
もうすぐ出来るから、ちょっと待っててね」
振り向きざま、クレアさんは天使のように微笑んでそう言った。
けれど、驚きで声も出ない様子のボクに、クレアさんは少しだけ笑顔を曇らせて
「ごめんなさい、急に押しかけてきて・ ・ ・ グレイくんがなんだか
お料理とか苦手で大変そうなこと言ってたから、つい、おせっかい
やいちゃって・ ・ ・ 」
申し訳なさそうに、少し恥ずかしそうに俯くのを見て、ボクはその場に
崩れ落ちそうになった。
・ ・ ・ グレイィィィィィィ・ ・ ・
そして、次の瞬間、閃くようにボクの頭に浮かんだことは
「ひょっとして、部屋もクレアさんが・ ・ ・ ?」
恐ろしかったけど、確認しないわけにはいかない。
「ごめんなさい。あ、お部屋には入ってないから・ ・ ・
リビングだけ、少し・ ・ ・ 」
「そ、そうなんだ・ ・ ・ ありがとう・ ・ ・ 」
ボクは自分でもはっきりとわかる引きつった笑みを浮かべてクレアさんに
お礼を言いつつ、速攻でカウチに寝そべるグレイの所へ取って返した。
「一体、あれはどういうこと・ ・ ・ 」
ボクはワナワナと震える指でキッチンを指差しながら・ ・ ・
「え?ああ。ちょうどじいさんとこから帰ろうかと思ってたら、
クレアさんが来てさ、男のコ二人で大変じゃない?とか聞いてくれたんで、
結構、大変でさ・ ・ ・ みたいなこと言ったら、手伝いに行ってあげるって
言ってくれたんで、じゃあ、お言葉に甘えてってことで・ ・ ・ 」
至極当然という顔でグレイは相変わらず呑気に寝そべっている。
「って、普通、断らない?クレアさんだって疲れてるだろうし・ ・ ・」
「だって悪いだろ。せっかく、言ってくれてるのに、断ったりしたら」
はぁーーーーー・ ・ ・ため息・ ・ ・
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