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一緒に住もう・ ・ ・と言い出したのがオレだったのか、ヤツだったのかは
もう忘れてしまったけれど・ ・ ・
宿屋で宿泊していれば、食事つきだし、部屋の掃除なんて面倒なことも
しなくていいし、確かに快適ではあった。
看板娘のランちゃんは、きさくで働き者で、明るくて、かわいいコだったし。
これと言って不満があったわけじゃないのにな・ ・ ・
ただ、じいさんのとこで修行の日々を送っているオレとしては、
そろそろ結婚なんかも考え始めていて、そのためには、やはり
多少なりと貯金なり、貯えなり・ ・ ・がないとまずいか・ ・ ・
という考えに至ったわけで・ ・ ・
ところが、じいさん曰く、
「まだまだ修行中のお前に払える給料など、あってないようなものだ」
などとのたまって、ほんとに一ヶ月分の宿泊費を払うと、自分の自由になる
小遣いにすら事欠くような、微々たる額しかくれず・ ・ ・
この歳になって親に小遣いをせびる、というのはさすがにプライドが
許さず・ ・ ・
で、二人で家を借りて住めば、かなり経済的に助かるという結論に
至ったのだった・ ・ ・と思う。
ところが・ ・ ・一緒に住んでみて・ ・ ・
コイツがこんなに口やかましいヤツだとは思わなかった・ ・ ・ ・
「グレイ、聞いてる?!何度言えば分かるんだよ!脱いだものを
なんでもかんでもその辺に放っておくのは、やめてって言ってるだろ!
それにさ、お菓子とかさ、食べたらちゃんとゴミ、捨てといてよ!
食器だっていつも洗い場にほったらかしでさ、いつもボクが洗ってるって
気がついてる?ホラ!また!言ってるそばからそうやって・ ・ ・ ・」
キャンキャンと子犬が吠え立てるような勢いでオレに食って掛かりながら、
それでも手元はチキンと動いていて、あっという間に散らかっていた部屋を
片付けてしまうところは、凄い、とは思うんだけどな・ ・ ・
黙ってやってくれるともっと、嬉しいんだけど・ ・ ・
「わりぃ、わりぃ」
とりあえず謝っとくか・ ・ ・
「家事は一週間交代にしようって約束したじゃないか!」
そうだったっけ・ ・ ・ ?
そう言われれば、そんな約束をしたような・ ・ ・
けど、人には向き不向きっていうのがあって・ ・ ・
そういうコマゴマしたことは、ヤツの方が向いてると思うし・ ・ ・
実際、上手いじゃん。
料理にしたって、掃除にしたって、部屋の片付けにしたって・ ・ ・
上手いヤツがやればいいんだと思うんだけどな・ ・ ・
オレの無言の言い訳がまるで聞こえたかのようにグッドタイミングで
ヤツは口を開いた。
「グレイがやらないから、しょうがなくやってるんだよ、ボクは!」
「分かった!オレが悪かった!明日からちゃんとやるから」
不満タラタラのヤツの恨めしげな目に負けて、オレは思わずそう叫んでいたのだった。
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