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へぇ・・・
クリフくんの手って、意外におっきいんだ・ ・ ・
もっと華奢なのかと思ってた。
それにけっこうガッチリしてて・ ・ ・
男のコの手、なんだ・ ・ ・
まったく突然に、
何の前触れもなく、
心臓の大運動会が始まった。
ドキドキ・ ・ ・ドキドキ・ ・ ・
急に立ち止まっちゃった私を、クリフくんは驚いて振り返る。
「あ、あの・ ・ ・手・ ・ ・」
恥ずかしくて顔、上げられない。
心臓の音、聞こえてしまいそう・ ・ ・
「えっ?!あっ!!ご、ごめん!!」
クリフくんははじかれたように手を離す。
チラッと見るとクリフくんは耳まで真っ赤になってる。
クスッ・ ・ ・変なの。純情なんだか、大胆なんだかわかんない。
それからのクリフくんと私は、つかず離れずの距離を保ちながら
時々、「足元、気をつけて」とか「大丈夫?疲れてない?」とか
何かとクリフくんに気遣ってもらいながら、結構楽しく
山頂までの道を歩いた。
ちょっと息がきれてきちゃったよ・ ・ ・
クリフくんにそのことを言おうとしたそのとき、不意に目の前の視界が
パーッと開けた。
「着いたよ」
クリフくんが私を振り返る。
「すっごーいっ!!!!!」
考えるよりも先に言葉が溢れ出すみたいだった。
山頂から見える夕日は大きくて、いつも見ているそれとは
まったく違って見えた。
辺りをもえ上がるような赤に染め上げていく。
雄大でそれでいて温かくて・ ・ ・
わけもなく涙があふれてくる。
悲しいわけじゃないのに・ ・ ・
胸が締め付けられるような・ ・ ・
感動・ ・ ・?
こんなにも素敵な風景がある。
生きてて良かったと心の底から思えるような、そんな光景。
まだ、私の心って、こんなにも感じることが出来るんだ・ ・ ・
素直な驚き・ ・ ・
「ここに来るとまるで自分が空に吸い込まれるような気がするんだ。
なんだか何もかもがちっぽけに思えて来て、自分の今抱えている
苦しみなんて、本当は凄くちっぽけなものなんじゃないかって・ ・ ・」
私は黙っていた。クリフくんのセリフを、とても愛おしく感じながら。
「涙ってね、あんまり心の中に溜め込み過ぎると、心が壊れちゃうんだよ。
ここなら、誰もいないから・ ・ ・ボクのことはその辺の石かなんかだと
思ってくれていいから・ ・ ・」
クリフくんは前を見つめたまま、熱心に言い募った。
あぁ・ ・ ・それで私を誘ってくれたんだ・ ・ ・
ありがとう、クリフくん・ ・ ・
ほんとに・ ・ ・
私はそのことを言葉に出せないまま、涙だけを流し続けた。
どれくらい泣き続けたんだろう・ ・ ・
辺りの空は淡いピンク色からだんだん濃いブルーへと、
見事なグラデーションを見せ始めていた。
もうすぐ星が瞬き始めるだろう。
「暗くなってきたね」
辺りの静寂を壊さないように静かにクリフくんは言った。
「うん・ ・ ・」
でも、私はまだそこを動けずにいた。
あんまりたくさん泣いたせいか、全身から力が抜けてしまって立てない。
こんなに泣いたのはたぶん、生まれて初めて。
一人取り残されてしまったあの時には、涙なんて出て来なかった。
ただ、ボーゼンとして・ ・ ・
心の中で全ての感情が眠ってしまったように・ ・ ・
涙ってこんなに出るものなんだ・ ・ ・って妙に感動したりして。
私が泣いている間中、クリフくんはただそばに座って前を見ていた。
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