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「クレアさんっ?!」
酷く慌てた声が聞こえたのと、目の前の景色が不意にグルん・ ・ ・と
回転したのとは、ほとんど同時だったと思う。
怒ったような、困ったような、いろんな感情がごちゃまぜになったような
複雑な表情が、いきなり視界に飛び込んできた。
「クリ・ ・ フ・ ・ くん・ ・ ?」
「クリフでいいよ」
目が合って、彼はうっすらと赤くなりながら口ごもるように言った。
「ご、ごめん・ ・ ・倒れてたから、てっきり・ ・ ・」
「心配してくれたんだ・ ・ ・。ごめんね」
私はクリフくんに支えられるようにして、身体を起こした。
そしてクリフくんは、ゴソゴソとポケットを探っていたかと思うと
バンダナを取り出してまるで、とても大切なものを扱うときのように、
丁寧に私の頬を拭って、はにかんだように笑顔を見せた。
「土・ ・ ・ついてたから」
土だけじゃないことに気づいていたはずなのに、そのことには
触れないでいてくれる。
(優しいね・ ・ ・)
心の中で呟く。
だって言葉に出してしまったら、ウソっぽくなるから・ ・ ・
「クレアさん、鼻が赤いよ」
クリフくんがいたずらっぽく笑う。
「えー?!やだっ!!ウソ?!」
慌てて両手で鼻を隠す。
「うさぎみたいだ。あっ、でも、うさぎは目が赤いんだっけ。
じゃ、ポプリちゃんがうさぎかな・ ・ ・」
「あっ、なんとなくそれ、わかる。フワフワしててそっと抱きしめたく
なっちゃうようなとこ、うさぎさんみたいかも」
今さっきまでの沈んだ気持ちが少し薄れて、思わず笑みがこぼれる。
そんな私に、クリフくんは少し眩しそうに目を細めた。
「クレアさん、マザーズヒル、行ったことある?」
唐突なクリフくんの問いかけ。
「え?ううん、ないよ。行ってみたいとは思ってるんだけど、
一人じゃやっぱちょっと寂しいし、ほんとのこと言うと仕事、
忙しくて時間なくて」
って、それはただ単に、慣れてないからトロ臭いだけのことなんだけどね。
「クレアさんは仕事、一生懸命やり過ぎるんだよ。
だから、さっきみたいに・ ・ ・」
穏やかだったクリフくんの顔から笑顔が消えていく。
まるでフェードアウトしていくみたいに・ ・ ・
ほんとに心配してくれたんだ・ ・ ・
そう思うとなんだか申し訳なくてシュン・ ・ ・となってしまう。
「だから今日はもう仕事、おしまい!行こ!」
クリフくんはギュッと私の手を握ると、勢い良く私を引っ張って歩き出した。
「ちょ、ちょっと。行くって、どこに?」
「マザーズヒル」
前を見たままクリフくんは答えた。
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