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あの頃の私は大地主の一人娘で・ ・ ・
俗に言うお嬢様だった。
お仕事は忙しいけれど、いつも、私のことを気にかけてくれる
優しいお父様と、美人でいつも笑顔を絶やしたことのない
素敵なお母様と、大勢の使用人に囲まれて、それなりに幸せに暮らしていた。
でも、そんな幸せも一瞬のうちに崩れ去ってしまった。
何十年に一度というもの凄い嵐はあっという間に、立派だった
お父様の広大な畑も牧場も全て呑み込んで、滅茶苦茶に破壊してしまった。
再建するための資金を手に入れるために、お父様は慣れない相場に手を出し、
借金は、あっという間に何百倍にも膨れ上がってしまっていた。
その頃・ ・ ・私は少しはお父様やお母様が大変な状態なんだという
ことくらいは分かっているつもりだった・ ・ ・
けれど、自分に何かが出来るなんて思いもつかなかったし、
そんなことは考えられずにいた。
そして、全く突然・ ・ ・
いいえ、私は本当は想像していたのかもしれない・ ・ ・
そんな日が来るかも知れないことを・ ・ ・
けれど、現実には突然過ぎるくらい突然に・ ・ ・
お父様とお母様は手を取り合って・ ・ ・
彼方へと旅立ってしまった・ ・ ・
私、一人を残して・ ・ ・
主を失った使用人達は当然のごとく、我先にお屋敷から去ってしまった。
お屋敷も畑も牧場も全て、借金の形になっていて私はほとんど
無一文同様のまま、放り出されてしまった。
お父様とお母様はどうして私も一緒に連れて行ってくれなかったんだろう・ ・ ・
私はこれから、どうすればいいんだろう・ ・ ・
当てもなくさまよっているうちに、私は港に辿りついていた。
行き先なんて、どこでも構わない・ ・ ・
もう、私の生きていく場所なんて、この世の中にはどこにもないんだから・ ・ ・
出港を知らせる汽笛が響く船に、誘われるようにフラフラと私は乗り込んでいた。
そして、私の乗った船は嵐の海で難破してしまった。
私の他に助かった人はいたのかどうか・ ・ ・
分からない・ ・ ・
皮肉なことに、死んでしまっても構わないと思っていた私は、
結局生きていて、しかも、どういう巡り合わせか
鄙びた牧場の再建なんかを引き受けていたりする・ ・ ・
どうせ、行くアテもないんだし・ ・ ・
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