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サクッ、サクッ・ ・ ・
小気味いい音をたててクワは土を掘り起こしていく。
(もう少し・ ・ ・)
そう思ってもう一度クワを地面に振り下ろした瞬間、
目の前の景色がグラリと揺れた。
ドサッ・ ・ ・!!
いきなり私の身体は私の意思を無視して地面に激突していた。
「いったーい・ ・ ・!!」
けれど、今掘り起こしたばかりの土は思ったよりもずっと柔らかで、
ホンワリと温かい。
土の匂い・ ・ ・
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そう言えばよく庭師のマルコムのところに遊びに行ったっけ。
春にはイチゴ、夏はトマト、秋には木の実。
寒い冬には温室で南国の珍しい植物や、咲き乱れる花々に囲まれて・ ・ ・
「ほら、お嬢様、あの実はもうすぐ、食べごろですよ」
「こうして心を込めて世話してやれば、花達だって応えてくれます」
お花のことや木の実のこと、土の話しや虫達の話し・ ・ ・
いろいろなことを教えてくれた優しいマルコム。
私があんまりマルコムのところに入り浸るものだから、
お父様やお母様によく叱られたっけ・ ・ ・
あ、違う・ ・ ・
お父様やお母様は私を叱ったりはしなかった。
叱ったのは教育係りのミケーネ・ ・ ・
いつも叱られる私をかばってくれたのは、家庭教師のピート先生。
「土や植物、太陽の光や水に親しむのは、とても、大切なことです。
ただでさえ窮屈なお屋敷での生活は、お嬢様には相当のストレスのはず。
お嬢様はご自身でそのストレスの発散をなさっておいでなのです。
まだ、お若いのにきちんと自己管理にお気を遣われている。
ご立派なことではありませんか」
「そうはおっしゃられても、先生。お洋服は汚していらっしゃるし、
お食事の時間やお勉強の時間の遅れられることもしばしば・ ・ ・
どちらにおいでかとお探しすれば、たいていは庭師のところで・ ・ ・」
「行き先がわかっておいででしたら、何も問題ないではありませんか」
「そうは参りません。いいですか、お嬢様。
お父様もお母様もあなたが一日も早く立派なレディーになられる日を
心待ちにしておいでなのですよ。
いつまでもお子様のように聞き分けのないことをおっしゃらずに、
ダンスやピアノのレッスンにもっと一生懸命、ご努力なさいませ」
「言われなくても分かってるわよ!」
「あっ!お嬢様?!申し上げているそばから、そのようにはしたない
格好をなさって・ ・ ・!!」
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やだ・ ・ ・
目の前がジンワリとぼやけて来る・ ・ ・
もう、思い出すことなんて無いと思ってたのに・ ・ ・
私を一人ぼっちにした人達・ ・ ・
私は信じていたのに裏切って、私の前から去って行った人達・ ・ ・
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