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平和なミネラルタウンでは珍しい緊急事態の発生に、
町中の人々が町外れの牧場に集まっていた。
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます」
いつものように形式的な挨拶を始めようとする町長の声を遮る声。
「町長さん!今はそんなことやってる場合じゃないでしょう!」
えっ?
驚きを隠そうともせず町の人達は声の主に注目した。
普段、こちらから話しかけてもほとんどその声を聞くことはないのでは
ないか、と町の全員から思われていそうな、彼が発言したためだった。
注目されていることに気づいて彼は、サッと赤くなり
いつものように黙り込んだ。
「とにかく急いでここを人の住める場所にしなくてはなりません。
皆さん、ご協力をお願いします」
町長の言葉を合図に皆は一斉に仕事に取り掛かった。
男性陣はおもに家屋の修理や建具類の手入れ。
女性陣は掃除と片付け。
全員でかかれば何のことはない。小さなその建物は見る見る
その様相を整えていった。
「後は彼女を運ぶだけだな」
ザクの言葉に皆は一様に息をつく。
彼女は病院の担架で運ばれることになった。
身体が冷えないように十分に配慮した上で。
「ちょっとの間だから、辛抱しろよ」
ザクは担架に横たわる彼女の肩のあたりを軽くポンポンと叩いて言った。
町の若手男性陣(ザク、リック、グレイ、クリフ)が交代で担架を
牧場まで運び、彼女は整えられたばかりのベッドに静かに移された。
「やれやれ・ ・ ・」
誰が言うとはなしに安堵のため息が漏れる。
そして、少しの沈黙の後、ザクが口を開いた。
「一人ってわけにはいかないわな・ ・ ・」
「ドクターもお産が終わるまでは、そっちには行けそうもないって・ ・ ・」
彼女を病院から運び出すときにエリィがそう言っていた。
皆が一様にお互いの顔を見合わせる。
「ボ、ボク・ ・ ・ついてましょうか・ ・ ・」
注目されることを覚悟しているような、緊張して少し上ずった
弱々しい声が沈黙を破った。
「ボクだけ・ ・ ・だから。ここで仕事らしい仕事してないのって・ ・ ・」
「それでは私も一緒に」
次いで名乗りを挙げたのはカーター神父。
「みなさんも、クリフ一人ではご心配でしょう。年頃の娘さんのことですし」
カーター神父のさりげない、けれど、鋭いツッコミに皆、苦笑している。
「えっ?!」
カーター神父の言わんとしていることに気づき、クリフは真っ赤になって
「ボッ、ボッ、ボクッ!べ、別に変な・ ・ ・」
言いかけて、けれど言葉を続けられずにいる。
「ガハハハハハハ・ ・ ・!!」
辺りに漂う奇妙な空気を一掃するかのような、豪快な笑い声。
もちろん、声の主はザク。
「誰もお前が何かするなんて、思っちゃいないって。
ただ、結果的にお前に押し付けてしまう形になるのが、心苦しいだけだ。
ミネラルタウンの住民全員が彼女のことを心配してる。
何か力になれることはないかと思ってる。だから今日だってみんなして
ここに集まってるんだ。だから・ ・ ・」
「私も少しクリフに意地悪してしまいましたね。クリフは何でもすぐ
真に受けるので、つい・ ・ ・。クリフ、すみませんでしたね」
カーター神父はニコニコと微笑んだままで、
口で言うほどには反省していない様子。
「今日のところはクリフとカーター神父にお願いするということで、
皆さん、よろしいですか」
町長が確認するように全員を見渡す。特に異論はなさそうだった。
「思いもかけない年越しの日になりましたが、これで解散ということに
しましょう。例年通り年越しのつどいはマザーズヒル山頂で行われます。
みなさん、是非、ご参加を」
町長の言葉におのおのは家路についてゆく。
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