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ちょっと早かったけど、二人でランチ。
クリフのご要望どおりの、私の手料理で。
クリフはおふくろの味っていうのに弱くて、和食好み。
でも、たまには違うものもいいよね、と思って今日はシチューにした。
「あれ?レパートリー、増えたんだ?」
クリフはちょっと驚いたように微笑んだ。
何、それ。じゃあ、今までクリフが喜ぶからと思って、せっせと和食を
作って届けてたのに、それしか作れないんだと思ってたの?
「他にも色々、作れるのよ。カレーとかお好み焼きとか・ ・ ・」
「へぇ。楽しみだな。クレアって料理、上手いし結婚したら毎日、
おいしいもの食べられるんだ」
ドキッとするようなことをサラッと言ってくれちゃって・ ・ ・
「そ、それより今日って・ ・ ・」
ドギマギしてるのを悟られまいと、必死に平静を装って
わざと話題をそらせる私。
「うん。クレアと是非、一緒に行きたいところがあるんだけど、
時間がさ・ ・ ・夜にならないとダメなんだよね」
クリフはちょっと言いにくそうに、上目遣いで私を見る。
夜って・ ・ ・
じゃあ、わざわざあんなに朝早くから来ることなかったんじゃ・ ・ ・
夜までなんてまだたっぷり半日以上あるよ・ ・ ・
私はどう答えていいのか分からなくて、口を開きかけては、また閉じてしまう。
「もう少し暖かかったら、マザーズヒルでも海岸でも、半日くらい
遊べるんだけど・ ・ ・ちょっと、寒いしねぇ・ ・ ・」
言いながらクリフはため息をつく。
何なのよ!それ。
誘ったのは自分じゃないの。
計画性ゼロね、全く・ ・ ・
「どうしよっか・ ・ ・これから・ ・ ・」
私に聞かないでよ!!
「それならそうと言ってくれれば、私だってそんなに慌てて仕事しないし、
お昼から来てくれても、十分間にあったと思うけど」
言いたくはないけど、つい・ ・ ・
「そうなんだけど・ ・ ・クレアとなるべく長い時間、一緒にいたくてさ。
こんな機会、めったにないし・ ・ ・」
だから!そういうことを面と向かって、堂々と言わないでよぉ・ ・ ・
嬉しいけど、どんな顔したらいいのかわからなくなるから・ ・ ・
「そ、そうだ。ケーキでも焼こっか。クリフって甘いもの、大丈夫だっけ?」
クリフの目の前にいるのがなんだか照れくさくて、キッチンに立つ。
「うん。甘い物は平気だけど・ ・ ・」
クリフは何か言いたげに言葉を濁して・ ・ ・
「適当にテレビでも見てて。そんなに時間、かかんないと思うから」
背中越しに声をかけたけど、クリフはうん・ ・ ・とか言ったような
言わないような曖昧な返事を返してきただけだった。
ちょっとそんなクリフがかわいそうな気もしたけど。
「ねぇ、クリフぅ!シナモン、平気?」
キッチンから声を掛けるけど、返事がない。
まさか、拗ねてるとか・ ・ ・
そう思って部屋に戻ってみると、クリフはテーブルに突っ伏して
スースーと健康そうな寝息をたてていた。
そうだよね。果樹園の仕事はいつも朝がゆっくりで・ ・ ・
10時半とか11じ前くらい。まさか、ぎりぎりまで寝てるわけじゃ
ないんだろうけど、今日はいつもよりは随分と早起きしてくれたはず・ ・ ・
しかも、思ったより簡単そうにこなしてはいたけど、慣れない仕事は
やっぱり大変だっただろうし・ ・ ・
私は頬にかかる髪にそっと触れて、耳元で囁く。
「風邪、引くよ」
クリフはモソモソと少しだけ頭を動かしたけど、熟睡してるみたいだった。
寝室から毛布を持ってきて、そっと掛けてから、私は編みかけのマフラーを
持ってきて、クリフの向かいで編み始めた。
コチコチと時を刻む時計の音だけがBGM。
キッチンからはケーキの焼けるいい匂いが漂ってきて、鼻をくすぐる。
満ち足りた優しい時間がゆっくりと過ぎていく・ ・ ・
いつまでも、こうして、この人と二人でいられたら・ ・ ・
そんなことを夢見てしまう。
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