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鶏達の世話の次は、牛と羊達の世話。
最初はさすがにおっかなびっくりだったクリフも、すぐに慣れて
ブラシをかけるのも、乳絞りなんかも、私とそれほど変わらず
こなせるようになってしまったのには、私もちょっとビックリした。
もっと、大変かと思ったのに・ ・ ・
そうして最後に馬小屋に来て・ ・ ・
「大きくなったなぁ。もう、乗れるの?」
セッセとブラシがけをしながら、クリフは私を振り返る。
「うん。春の草競馬には是非、出したいと思ってる」
私はニカッと笑ってみせた。
「へぇ・ ・ ・それは無謀なことを・ ・ ・」
クリフは口の中でモゴモゴ言いながら
「じゃあ、乗ってみてもいい?」
いたずらっ子のように目をキラキラさせて・ ・ ・
「えっと、・ ・ ・たぶん、大丈夫だと思うけど。
ね?パカポコ」
一応、本人ならぬ本馬にお伺いをたててみる。
クリフのブラシの掛け方が気に入ったらしく、パカポコは
ブルンと一度だけ鼻を鳴らした。
「一緒に乗ろ」
ヒラリと軽々パカポコに跨ったクリフは、鞍の上から私に向かって
手を差し伸べる。
「え?パカポコは二人乗りなんてしたこと、ないんだけど・ ・ ・」
ちょっと不安になって・ ・ ・
「大丈夫だよな」
ポンポンと軽く首筋を叩きながら、クリフはパカポコに同意を求めるように
笑いかける。
パカポコは軽く首を振って・ ・ ・でも、それは
「大丈夫」
と言っているように見えた。
クリフの手に掴まってパカポコに跨る。
後ろからクリフが手綱を握っているので、なんだか背中から抱きしめられてる
みたいで、ちよっと恥ずかしい・ ・ ・
「行くよ・ ・ ・」
始めはゆっくり・ ・ ・そして、段々スピードを上げていく。
髪が風を切って、後ろに流れる。
風は肌に突き刺さるように冷たいのに、不思議と寒さを感じない。
背中に感じるクリフの温かさ、息遣い・ ・ ・
苦しいくらいにドキドキするのに、酷く安心出来て、心地よい感覚・ ・ ・
10分ほど走って、クリフはようやく手綱を緩めて、序々にスピードを
落としていった。
「結構、走るね、この馬。クレアが大切に育ててるっていうのが、
すごく分かる」
クリフはスルッと馬から下りて、私に手を伸ばしながら言った。
その手に掴まろうとした私の腋にクリフの手が伸びて、あっという間に
私はクリフに抱き上げられていた。
「キャアッ!!」
別にぶりっ子しているわけじゃなく、ほんとにビックリして声が出る。
一瞬、フワッと体が宙に浮いて、トン!と足が地面に着く感覚。
確かにその感覚はあるのに、まだ、なんだか宙を浮いているような感じ・ ・ ・
「意外ィ!クリフって割と力、あるんだ」
恥ずかしくて、つい、憎まれ口を叩いてしまう。
「オ・ト・コ、だからね」
クリフが口の端だけを持ち上げて、ちょっと意味ありげに笑う。
「クレアも意外に軽かったよ」
グサッ!
牧場の仕事するようになって、ただでさえ筋肉質になっちゃって
気にしてるのに・ ・ ・
「だから、こういうことも出来たりして・ ・ ・」
フワッと体が宙に浮く感覚。
気がつくと私はクリフに抱き上げられていて・ ・ ・
俗に言う・ ・ ・お姫様だっこ・ ・ ・
一気に全身の血が顔に集中したみたい。頬が熱い。
「やだっ!!下ろしてよ!」
恥ずかしくてとても顔、上げられない。
バタバタと手足を動かして・ ・ ・
「うわっ!!それはまずいって!!」
バランスを崩したクリフがドン!!と尻もちをつく。
「いってぇ!!」
おもいっきり顔をしかめているクリフから慌てて離れる。
「つまんないこと、するから・ ・ ・!!」
私はどんな顔をしていいのかわからなくて、
つい、冷たい物言いになってしまう。
クリフは、あてて・ ・ ・と呟きながら立ちあがって
パンパンとズボンについた雪を払っている。
「・ ・ ・痛かった・ ・ ・?」
少しだけ、悪かったかな・ ・ ・なんて思って、クリフを覗き込むと、
「うん、凄く!治療費、高くつくからね」
クリフは思いっきり怒った顔で、でも、目が笑ってる。
「熱いお茶と・ ・ ・クレアの手料理」
そうして肩をすくめて笑うクリフが・ ・ ・愛しくて・ ・ ・かわいい。
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