真っ暗な闇の中で不気味な、得体の知れない何かが唸り声を上げている。
真冬の嵐の海はそんな形容しがたい音に包まれていた。
まるで氷のツブテをぶつけられているかのように、
雨は容赦なくボクに襲い掛かってくる。
風は髪と言わず、服と言わず、滅茶苦茶に引っ掻き回し、
全身を揺さぶりボクをその荒々しい自身の中に引きずり込もうとしている。
ボクは荒れ狂う海を睨み付け、嵐の中に立っている。
ボクなんか壊れてしまえばいい!!
いっそこのまま嵐の海に飛び込んでしまえば、何もかもお終い
(おしまい)
に出来る・ ・ ・
拭っても拭っても拭いきれない後悔の念。
何度懺悔を繰り返しても、死んでしまった人は2度と生き返ることはない。
行方不明の妹を探すアテすらない。
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父さんが死んだのは、妹が生まれて間もない頃・ ・ ・
ボクの記憶にすらぼんやりとしか、残ってはいない。
母さんは幼い子供二人を抱えて一生懸命働いてくれたけど、生活はやっぱり大変だった。
母さんはそれでも気丈に笑ってみせて、「みんなが元気なら、それで幸せ」
と口癖のように言っていたけど、ボクは納得出来ずにいた。
お金があれば、もっと幸せになれる。
母さんを幸せにしてあげたい。もちろん、妹も・ ・ ・
けれど、今住んでるこの狭い町、田舎暮らしのままじゃ、いつまでたっても
その夢を実現させることは出来ない。
真夏の夜空を彩る花火のように、例え一瞬でもいい。
輝いて生きたい。そんな生き方がしたい。
ボクは誰にも内緒で町を飛び出した。
必死に働いて、働いて、働いて・ ・ ・ ・
気がつけば3年という月日が流れていた。
その3年の間に貯めたお金も、結構な額になっていて、ボクは
喜び勇んでウチへ帰った。
母さん、ビックリするよね。妹も大きくなってるだろうな・ ・ ・
ところが、帰ってみればウチは荒れ放題。
町の人が言葉少なに教えてくれた。
「お母さんは死んだよ。妹さんは施設に引き取られ、
そこからどこかのウチに引き取られて行ったらしいけど。」
「母さんは最後の最後まで、あんたのことを心配してたんだよ。
どうして連絡の一つも入れてあげなかったの」
隣のおばさんは流れる涙を隠そうともせず、ボクを責めた。
違うよ、おばさん・ ・ ・ボクはただ、驚かせたかっただけなんだ・ ・ ・
そうしてボクはようやく母さんの言葉の意味を噛み締める。
「みんなが元気なら、それで幸せ」
施設で教えてもらった住所を頼りに、引き取られた先を尋ねてみたけど、
どこかへ引っ越した後で、行き先を知る人はなかった。
ボクは残ったウチを処分して、母さんのお墓を整えて・ ・ ・
しばらくの間、町に留まっていたけど、町の人達は無言でボクを責め続ける。
ボクはいたたまれなくて行き先も確かめないまま、停泊していた船に乗り込んだ。
もう2度と戻ることはないだろう故郷は、だんだん遠ざかりやがて小さく見えなくなった。
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