|
「俺ね、SMAP、見た」
まるでうわ言のようにボンヤリと呟いた吾郎の声に、一瞬、楽屋内にビ・ミョーな
空気が流れ、再び、沈黙が訪れた。
中居はスポーツ新聞の野球の解説欄に目を走らせ、剛は例のごとく、韓国語の
本を読んでは、時折、意味不明な言葉を呟き、慎吾もいつもと同じく、ベラベラ
ブックを片手に、この年になっても不思議と楽屋に常備されているスナック菓子の
袋に手を伸ばしている。一度、ダイエットに成功したという自信からなのか、
最近ではやはり、以前のようにしょっちゅう食べ物を口に運んでいる光景を
目にする気がするのは、一応、俺の気のせい、という事にしておくとしても。
俺は俺で、携帯を片手にメールの返信なんかをやっている。
「俺ね、SMAP、見たんだって!!」
その場にいた全員に完璧に無視を決め込まれた事にようやく気づいたらしい吾郎が、
さっきとまったく同じセリフを、さっきよりは遥かに大きな声で口にした。
けど・・・・
そのセリフに対して、俺らにどう反応しろっていうのよ?
意味不明な吾郎のセリフに俺は一応、視線だけは吾郎に向けるものの、言葉は
出せずにいた。
「へぇ? どこで見たの? テレビ? それとも、雑誌か何か?」
全然、聞いていないのかと思っていたら、剛がふいに顔を上げ、吾郎を振り返った。
・・・・偉いな、剛。そういう話の振り方があったのか・・・・
思いやりに満ち溢れた剛のセリフに、俺は訳もなく感動していたりする。
「映画館」
至極真面目に答える吾郎の答えに、疑問が浮かんだ。
吾郎は今「SMAP」を見たっつったんだろ?
ここ数年、俺ら全員で映画に共演したことなんか、ねぇぞ。
こいつが妙な事を口走るのは、案外日常茶飯事で、メンバー全員がその事を
熟知しているから、今更、驚かねぇっちゃあ、驚かねぇんだが。
にしても、変じゃねえ?
「映画館?」
思いもかけなかった答えに、さすがの剛も引き気味だ。
恐らく、適当に相槌を打って会話を終わらせてしまおうって腹だったんだろうな。
そう出来そうになさそうな話の展開に、明らかに逃げ腰になる空気が、こっちに
まで漂って来る。
「うん。映画館でSMAP、見た」
反応してもらえた事が素直に嬉しいらしい吾郎があどけない笑顔を浮かべ、
その笑顔に逆に神経を逆なでされたらしい中居が、これ以上はない、っつった
不機嫌丸出しの声で唸った。
「会話してぇんなら、もっと、人に分かる言葉で喋れ!!」
まるで中居がそう言うのを待ちかねていたように、吾郎の目が輝く。
「俺ね、この間封切られた映画、見に行ったのよ。『笑の大学』」
「・・・・お前、それ・・・自分の映画、だろ?」
確認するまでもなかったが、そう突っ込まずにはいられない。
「うん」
頷く吾郎は嬉しそうに笑っている。
嫌味を言われている、とか、呆れられている、とか、自分に向けられている
であろうマイナス感情を、吾郎のセンサーは驚くぐらい感知しないように
出来ているらしく、その笑顔には邪気がない。
羨ましいような、羨ましくないような・・・・・
「だってさ、気になるでしょ? 観てくれてる人の反応、とか。だからね、俺、
わりと良く行くのよ。時間のある時とか」
・・・・・いや、気持ちは分かるが・・・・ふつー、やんねぇだろ?
っつーか、恥ずかしくねぇ? 自分がスクリーンに映し出されるのを見るのって。
「その時に見たの? SMAP?」
剛が、どう言っていいのか分からない、という顔で、それでも吾郎の
次の言葉を促す。
中居と慎吾は8割方、シカト、だな、あの様子は。
「そうなのよ。映画が終わって、映画館出たらさ、何か人だかりがしてて。
あ、誰かタレントの人とか見に来てくれてたのかな、なんて思ってさ。ちょっと
挨拶でもしようかな、とか。感想、聞かせて欲しいな、とか思って人だかりを
覗き込んだらさ、そこにSMAPが居て、みんなにもみくちゃにされてた」
「・・・・・何だ? それ?」
「いや、ほんとに自分がそこに居るのかなって錯覚しそうになっちゃったよ。
それぐらい顔、似てて。しかもさ、俺だけじゃないんだよ。中居くんも木村
くんも剛も慎吾も居るの。全員、揃ってんのよ。俺、もうちょっとで声、
かけそうになっちゃったもん」
吾郎がメンバーにしょうもないちょっかいをかける事は、わりと良くあって、
俺はそんな時には、決まって、ヒマなヤツ、とか思い、大抵はほとんど全員に
無視されて、それで終わる。
今日もそうなのか、と思ってはみるが、それにしては、しつこくて、詳しい。
そんなでっち上げをして、何が楽しいのかとも思える。
「俺たちのそっくりさん、って事?」
「そっくりさん、か。うん。なるほどね。そう言う風に言われれば、納得出来る
かな」
剛に言われてそう納得している辺り、吾郎の中でも、どうやら今、口にしていた
事に対して、半信半疑だったようだ。
「で? そのそっくりさん、とやらはどうなったんだよ?」
自分の名前が出たせいなのか、下らない話を一刻も早くやめさせたいのか、
中居が口を挟む。
「凄いんだよ。人込みをかき分けてさ、あっという間に、いなくなっちゃった。
まるで、風が通り過ぎるみたいにさ。あれって本当に人間だったのかなぁ。
幻だったりして・・・・」
自分からそう言い出すに至って、中居がキレる。
「昼間から寝惚けてんじゃねぇよ!! 下らねぇ話、すんなっ!!」
中居の怒声が楽屋に響き渡り、
「えっ?! 何、何?! どうかした?!」
慎吾が驚いたように飛び上がる。
シカトしてんのかと思ってたら、寝てやがったのか、こいつ・・・・・
中居の怒声が締めとなり、吾郎がし始めた意味不明な会話はそこでピリオドを
打った。
「ねぇ、おっさん。俺らさぁ、これから遊びに行くんだけど、金、ねぇんだよねぇ」
「ちょっとでいいからさ、金、恵んでくんねぇ?」
「結構、いい格好してんじゃん? こんな昼間にさ、公園でブラブラしてるわりには。
お水の人? お金、持ってんでしょ?」
久しぶりのオフだから、たまにはのんびりしようかな、なんて思って本屋さん
巡りをした帰りに、近所の公園でベンチに腰かけてボーッとしてた。
砂場で遊ぶ子供とか、追いかけっこをして走り回る子とかを見て、そう言えば
お姉ちゃんとこの子とも最近、会ってないなぁ、なんて事を思って。
たまにしか会わないから会うたびに成長していて、驚かされる。
それくらいの年齢には出来て当たり前の事らしいんだけど、俺は毎回、そんな
ささいな事に驚いて、お姉ちゃんとかに呆れられたりもする。
「ま、吾郎も自分の子供、育てるようになったら分かるわよ」
最近のお姉ちゃんの決めセリフはいつもそれで、「でも、その前に結婚よね」と
分かりきった当たり前の一言まで添えてくれる。
木村くんがアイドルで人気絶頂の真っ只中にも関らず、結婚してしまった事で、
その余波が俺にまで及んでくる。
アイドルだからそんなに簡単に結婚なんか出来ないんだって。と言う言い訳が
通用しない。
自分にもそう遠くない未来にそういう現実が待っているんだとしても、今の
俺には全く想像が出来ない。
結婚を決める時ってどういう気持ちなんだろうな・・・・
ボンヤリとそんな想像を頭に巡らしていたその時。
まだ子供のくせに、いやに荒んだ雰囲気のする5、6人の高校生ぐらいの子達に
回りを囲まれてしまった。
「ちょっと付き合ってよ」
どう見ても好意的とは言い難い雰囲気で、少年達がにじり寄ってくる。
・・・・どうしたらいいのかな、こういう場合は・・・・・
立場が大人と子供である以上、きちんと諭してやるに越した事はないんだろうけど。
言っても聞きそうな人間でもなさそうだしね。人を見かけだけで判断するのは
良くない、とはいうものの、時と場合によるでしょ。
困ったな・・・・
「オラ!! さっさとしろよ!!」
多分、リーダー格の子なんだろう、一人の少年がそう凄んで腕を掴み上げる。
こんなとこで必要以上の騒ぎを起こすのは、避けたい展開ではあるし。
いざとなったら携帯で警察に連絡すればいいのかな・・・・?
あんまりお近づきにはなりたくないけど・・・・・
こもごも考えながら、ま、抵抗するのは、この場では止めておく事にした。
少年達が俺を連れ込んだ先は、公園の中でも人気の少ない、ちょうど、大きな
木の陰の死角になる場所で、俺は、案外、素直に感心していたりした。
うまい場所だよね。人にあんまり見られないし。
で、先ほどの会話と相成っているわけなんだけど。
金を出せ、と言われて、はい、どうぞと差し出すほど、さすがに俺もお人好し
じゃないし。
「聞こえねぇの? おっさん。金、出せっつってんの!」
・・・・・・ムカツク・・・・
おっさんって言うな。そんなに年、取ってないんだぞ。どう見たってお兄さん、
だろ。
「痛い目見るまで分かんないの? 俺らがおとなしくしてるうちに言う事、聞いた
ほうが身のためだと思うけど」
「・・・・俺、さっきからきになってんだけどさ、こいつ、どっかで見た事、ねぇ?」
グループの一人が首を傾げた。
あらら・・・ヤバー。気づかれちゃった?
「どっかって、どこだよ?」
「いや、それが思い出せねぇんだけどさ」
・・・・ガクッ。いいけどさ、別に。
「あっ?!」
見た事があると言った子とは別の子が声を上げる。
「もしかして、SMAP?」
「SMAP? そんなはずある訳ないじゃん。そんなヤツがこんなトコに居るはず
ねぇじゃん」
バカにしたように笑う子に、言い出した子が睨み返す。
「お前、SMAPだよな?」
尋ねてくる子を軽く睨みつける。
・・・・お前ぇ? 年上にそういうものの言い方、良くないよ。
それに人括りにしないでよね。
どうでもいい事だけど、一応、心の中で突っ込んでおいて。
・・・・そろそろ帰って夕飯の支度しないとなぁ。
この子達、どうすればいいのかなぁ・・・・・
ぐるりと少年達に視線を一巡りさせて考え込んだ瞬間
「何か言えよ!! おっさん!!」
突然、そのうちの一人が俺に向かって、拳を繰り出してきた。
・・・・ちょっ?! 何で?! 何でいきなりそういう展開になるんだよ?!
無抵抗の人間、殴るなんて良くないじゃん?!
反射的に顔を庇ってしゃがみ込んだ時、全く別の空気を纏った人間が、自分の
すぐそばに佇む気配に、思わず顔を上げて・・・・
・・・・・え?
俺は自分の目を疑った。
自分と全く同じ顔の人間がそこに居る?!
「・・・・ぐぇ・・・」
蛙が潰れる時のような奇妙な声を上げて、俺に向かって拳を振り上げた子が
うずくまっている。
「何だよ、コイツら?! 双子?!」
気味悪そうに言う少年達の声を耳にしながら、俺も信じ難い思いでその男の顔に
まじまじと見入ってしまう。
「無抵抗の人間に暴力を振るうのは良くないって、君達、学校で、とか親に教わら
なかったの?」
・・・・声も同じ・・・・・
「ついでに言うと、こういう恐喝まがいの事もしちゃ、いけないんだよ」
涼しげに微笑んでいるその笑顔は、ぞっとするほど冷たい。
「遊ぶ金が欲しいんなら、ちゃんと働きなさい」
さらに、ニッコリとその男の顔を彩った笑顔に背筋が凍る気がする。
少年達はすっかり顔色を失って、小刻みに震えている。
「もう二度と、こういう悪い事しないって誓うんなら、このまま帰してあげるけど?
それとも、君達こそ痛い目に遭わないと分からないかな?」
「う、うっせぇんだよ!! 覚えてろよ!!」
酷く月並みなセリフと共に、少年達はあっという間にバラバラと逃げ出して行った。
用は済んだ、とばかりその場を立ち去ろうとするその男を、俺は反射的に呼び止めた。
「映画! 映画、見に来てくれてましたよね?!」
他人とは思えないその男に丁寧語で話し掛ける事に多少の抵抗は覚えつつ。
「えっ?!」
露骨に驚いたようにその男が足を止め、俺を振り返る。
「俺の映画、見に来てくれてましたよね? 俺、あの日、同じ映画館に居て・・・
中居くんと木村くんと剛と慎吾と・・・・5人、一緒だったよね?」
名前が分からないから、とりあえず、俺の知ってるメンバー名で言ったけど、
一応、通じたみたいだった。
「あの時は幻か何かかと思ったけど、やっぱり、いたんだ、ほんとに・・・・」
不思議な感動。
この世の中に3人は同じ顔の人間が居るって聞いた事があるけど・・・・
本当にいるんだ、同じ顔の人間。
「良かったら、少し、話ししません? 何か他人の気がしなくて・・・・」
そう言いながら、なんかナンパしているみたいなセリフだな、なんて、変な事が
気になって苦笑してしまう。
俺と同じ顔した男は酷く困ったように曖昧な笑みを浮かべている。
そして、その次の瞬間、その男の顔つきが変わった。
ピンと糸が張り詰めたような緊張感が男を包む。
「足に自信は?」
低いけれど鋭い声で一言だけ尋ねられる。
「・・・あんまり・・・・」
答えた途端、露骨に歪んだ男の顔に少し申し訳ない気分になり
「持久走なら、少しくらいは・・・」
と付け足したら、グイッと腕を掴み上げられた。
「とにかく走って!!」
フワリと髪が後ろへ流れ、景色が一気に流れ出す。
チュイン・・・・!!
ごく近くで空気を裂くような音がして思わず、足が止まりそうになる。
「走れ!!」
有無を言わさぬ険しい声に、ただ夢中で足を動かす。
チュイン!! チュイン!!
更に2、3発同じような音が響き、やがて、何もなかったかのように、周囲に
静寂が訪れた。
真冬にも関らず、全身汗びっしょりになり、飛び込んだ先の喫茶店には
中居くん、木村くん、剛、慎吾の4人が顔を揃えていた。
「ゴ・・・・ピンク?! そいつは・・・・?!」
ごく低いけれど、酷く厳しい声で問い詰めるのは、中居くんのそっくりさん。
「・・・・ごめん。ちょっと訳ありで」
答えるピンクと呼び掛けられた俺のそっくりさんが、困ったように俺に視線を
流してくる。
「妙な連中に狙われた。まだ、誰かは見当もつかないけど。その時に一緒に
居たんだよ。偶然。放っておくわけにも行かないでしょ。この顔だから。
俺と間違われたら大変な事になるし。で、一緒に連れて来ちゃった」
先ほどの緊張感を纏った人間とは全く、別人な気がした。
穏やかな苦笑を浮かべるその向こうで、慎吾や剛、そして、木村くんが驚いた
顔で俺を見詰めている。
「・・・・・凄い・・・こうして並ぶと本当に瓜二つなんだね?」
慎吾のそっくりさんが感動したように呟く。
「ほんとだ。テレビに出てる、ピンクのそっくりさん」
目を細めて笑うその様はまるで、本物の剛そのもので。
・・・・あぁ、そっか。この人達にとっては俺達がそっくりさん、な訳だ・・・
「・・・ピンク、お前、分かってんだろうな・・・」
苦りきったように呟くのは、木村くんのそっくりさん。
下二人の平和的な態度に比べて、上二人の態度は頑なで険しい。
「君の言いたい事は分かるよ、レッド。でも、仕様がなかったんだよ。狙って
きたヤツらを巻いて、安全な場所へって思ったら、ここしか思い浮かばなかった」
俺のそっくりさんが心底、困ったように俯くのを見て、レッドと呼ばれた
木村くんのそっくりさんは、わざとらしく大きく肩で息をつき
「ま、連れて来ちまったもんはしょうがねぇか。適当な頃合いを見計らって、
送ってくんだな」
諦めたように呟いた。
「何かいつもテレビで見てる人が、目の前に居るって新鮮だよね」
ニコニコと嬉しそうに俺に笑いかけながら言う慎吾のそっくりさんに
「浮かれてんじゃねぇぞ、グリーン」
なんて、中居くんのそっくりさんが厳しい表情を見せる。
慎吾がグリーン、木村くんがレッド、そして、俺がピンクって事は・・・・
「イエローに・・・ブルー?」
残りの二人に向かって尋ねかける。
「そう!! 意外に鋭いね? テレビだともっと、何かボーっとしてる感じなのに」
さすがは剛のそっくりさん。イエローは全く悪意の感じられない笑顔で、
人がムッとするような事を堂々と口にする。
「分かるだろ、ふつー」
嬉しそうに笑っているイエローに、わざわざ水を差すようにレッドが横から口を
挟んでくる。
「そうかな? そんな事ないよね? グリーン」
イエローがグリーンに話を振って、振られたグリーンが
「それよりさ、ピンクがさっき言ってたけど、相手を巻いてきたって。よく
ピンクについて来れたよね? そりゃ、ピンクも手加減したんだろうけどさ」
感心したように言った。
「うん。それは俺も助かった。途中でバテられちゃたりしたら、俺じゃ
背負って走る訳には行かないから。グリーンと違って」
僅かに含み笑いを洩らして、ピンクがそんな風に答えている。
「体力と持久力には自信あるから。アイドルは体力勝負なんだよ、
あぁ見えても」
この人達に俺達の事がどんな風に見えているか、はっきり分かっている訳じゃ
ないけど。
見た目ほど楽でもなければ、派手でもない仕事なんだよね、アイドルっていうのもさ。
「ねぇ、ねぇ、一つ、聞いてもいい?」
グリーンの顔に悪戯っぽい笑顔が浮かぶ。
「どうぞ?」
「もしかしてさ、ここに居るレッドに似た人に、携帯で薔薇の画像とか送ったり
とか、する?」
「・・・・した事、ある、けど・・・・?」
「じゃあさ」
今度はイエローが話題に入って来る。
「二人して、しょーもないじゃれ合いとかして、周りの人間に引かれたり、とか
しない?」
「・・・・・しない、とは、いえないかも・・・・」
答えた途端、二人揃って爆笑する。
「顔が似てるとさぁ、思考回路とかも似るのかな?!」
って事は・・・・
俺は、僅かに顔を赤らめてあらぬ方を向いているピンクと、爆笑している二人を
その視線だけで殺せるんじゃないかと思えるような、恐ろしげな形相で睨み
つけているレッドの両方の顔を盗み見る。
「グリーン、イエロー。下らねぇ事ばっか言ってねぇで、ちょっと、周りの様子、
見て来い」
ブルーの一言で二人の顔つきが変わり、それは、本番のスタンバイをする時に、
中居くんがメンバーに「行くぞ!」と声をかける時と少しだけ雰囲気が似ていた。
音も立てず店を出て行った二人は間もなく戻って来ると
「大丈夫。不穏な動きはないみたいだよ」
とブルーに報告し、その報告を受けてブルーがピンクに無言の視線を送る。
「送って行くよ」
「あ・・・・うん。ありがと・・・・」
二人連れ立って歩いていると、すれ違う人が必ずと言ってもいいほど振り返って、
俺達二人を見比べるように、せわしなく視線を動かした。
あからさまに驚いたような視線が少しだけ鬱陶しくて、けれど、後の残りは
何だか酷く、楽しい気分で。
人に悪戯を仕掛けている時の快感、とでも言えばいいのかな?
「双子に見えるかな? やっぱり」
隣にある自分と同じ顔を覗き込む。
「たぶん、そうだろうね」
頷いてピンクは少しだけ訝るように俺を見た。
「名前とか聞かないんだね? どういう関係? とか、どんな仕事してるの? とか」
「・・・・最初にブルー・・・だっけ? 彼が君の事をピンクって呼んだ瞬間に、
って言うか、君と一緒に何者かから逃げる時から、薄々、気づいてたから。
普通の人達じゃなさそうだって」
驚いたようなピンクの視線が微妙に心地いい。
「本名を呼び合わない間柄と職業なんでしょ」
「そこまで想像がついてるんなら話は早いね。俺達の事は公にはしないで。
出来れば忘れて欲しい。君は俺達なんかと関わり合いになっちゃいけない人だ。
君は光の中に居続けるべき人なんだから」
一瞬だけ痛みを堪えるような表情が、ピンクの穏やかだった顔に暗い影を落とし、
その言葉を最後にピンクの姿は俺の視界から消えていた。
辺りには薄く墨を零したような夜の闇が徐々に迫り、急に全身に突き刺さる
ような冷気を感じて、俺は身震いをして白い息を周囲に躍らせる。
今頃、みんなどうしてるかな。
普段は滅多にそんな思いに囚われる事はないけれど、今日だけはちょっと
そんな気分になる。
また、しょーもない画像でも送ってあげよっかな。
・・・・って、中居くんの携帯には送れないんだっけ・・・・・
中居くんもさっさと携帯、替えればいいのにね。
中居くんにだけは送ることを諦めて、俺は他のみんなにどんな画像を送ろうかと
携帯を開き、中の画像を吟味し始めた。
|