ガラガラ・・・・ガラガラ・・・・
カツン、カツン・・・・・
台車の音に吾郎の革靴の靴音が混じる。
「・・・・それにしても大きいよねぇ・・・・どれくらいあるのかな?
150cm・・・くらい?」
しみじみ感心したように吾郎が呟く。
「・・・・・147」
「あぁ、やっぱり。それくらいだと思った」
自分の予想が当たった事が嬉しいのか、綺麗な笑顔が吾郎の横顔を彩る。
「よく、こんなの見つけたねぇ?凄いね、ほんとに」
その声はとても嬉しそうで、見ると瞳をキラキラと輝かせている。
「俺、これを見た時さ、ほんとに涙、出るかと思ったもん。昔、まだ、
子供だった頃、ショーウィンドウに貼りついてさ、ずっと、眺めてた時の
ドキドキするような、あの感覚が蘇って来てさ・・・・」
その吾郎の言葉に嘘があるとは思えない。
素直で、胸の中に染み込んでくるような、温かさに満ちている。
けれど・・・・
それなのに・・・・・
「それでも結局、お前は中居のを選んだんだろ・・・・・」
・・・・堂々巡り。
吾郎が何かを口にすればするほど、俺の思いはそこに囚われて離れられなくなる。
「だってさ、他のは全部、手で持てなかったんだもん」
吾郎が少しだけ困ったような笑みを浮かべる。
・・・・・・は?
クラリと一瞬、目の前の景気が歪む。
・・・・手で、持てない、だとぉ?
まさか、そんな下らねぇ理由で、俺の選んだものを残した、とか、言うんじゃ
ねぇだろうな・・・・
俺がどれぐらい大変な思いで、これを入手して、ここまで運んで来たと
思ってんだよ。
もちろん、そんな事を本人に言う気はサラサラねぇけど、それでも・・・・
「俺ね、ほんとに嬉しかったの。メンバーみんなからさ、こんな風にお祝い
して貰えて。毎年さ、誰かしら、何かしらお祝いしてくれるんだけどさ、
こう言う風に全員から一度にお祝いして貰うのって、初めてじゃない?
もう、ほんとに、凄く嬉しくてさ」
幸せそうに溜息をついて、ゆっくりと目を伏せる吾郎の横顔は、同性の俺でさえ、
クラクラするほど綺麗で、こいつが未だ独身だとか、特定の彼女がいないとか、
そういうモロモロの事が不思議で仕方なくなって来る。
・・・・ま、遊び過ぎ、ではあるか・・・・
ふと、そんな思いも湧いて、苦笑してしまったりもするんだが。
そう言えば・・・・・
「このままもう少し、メンバーの愛に包まれていたい・・・・」
とか、普通、男が素面でぜってぇ口に出来ねぇような事、口走って、本当に
幸せそうだったよな、こいつ。
「だからね」
不意に吾郎の瞳に強い光が灯り、俺の目をジッと見詰めて来る。
当然のように、その瞳の力に引き込まれるように、俺も吾郎の目を見詰める。
・・・・周囲からすれば、かなり、危ない光景ではあるだろうな・・・・
男同士で見詰め合っている図って言うのは・・・・
とは、一瞬、思いもしたが、俺は吾郎から目をそらす事が出来ない。
「順番なんて決められない。みんなの俺を思ってくれる気持ちに、順番なんて
つけれないんだよ・・・・」
「・・・・・・・・」
「でもさ、番組上、どうしてもどれか一つって言われちゃってさ、ま、これが
一番楽に持てそうかなぁ、って思ったものをセレクトしたの」
・・・・なんだ、そりゃ?
不意に慎吾のセリフが頭の中に走る。
『何を基準にセレクトしたか、なんて、イマイチ良く分かんないよね』
「にしては、随分、思い入れたっぷりのセリフ、吐いてじゃねぇか」
「あれはテレビ用のコメントに決まってるじゃない?まさか、手に持てるから
これを選びましたぁ、なんてコメント出来ないでしょ。あ、もちろん、完全な
嘘、言ってるつもりはないけどさ。胸がキュンってなったのは、全部、だから」
ニコニコと笑う無邪気な笑顔に、何も言えなくなる。
・・・・こんなヤツの・・・・こんな理由のために・・・・
俺は、さっきまで・・・・あんな、死にそうな思いをしてた訳?
目の前に突き付けられた事実に、膝から崩れそうになるのを、台車に掴まる事で、
どうにか堪えていた。
「・・・・木村くんが選んでくれたモノに対する気持ちは、あの時にちゃんと
全部、言ったんだよ?」
ニッコリ笑って俺を覗き込む吾郎の顔に、僅かに朱がさす。
「聞いてくれてた?覚えてる?」
言われて、慌てて、その時のコメントを頭の中でリプレイする。
・・・・そう言われれば・・・・
やけに長々と語ってたな・・・・
段々と思い出すにつれて、こっちの顔も火照ってくる。
「なのにさ、あんなに落ち込む事、ないじゃんよ」
まるで俺が悪いような口振りじゃねぇか、それじゃ。
誰のせいで落ち込んだと思ってんだよ。
お前がしょーもない理由でセレクトするからだろーがっ?!
ダラダラと歩いているうちに駐車場に到着する。
「実はねぇ・・・・」
ここに来て吾郎が言いにくそうに口を開く。
「俺の車、それ、載せられないんだよねぇ」
見るとスポーツタイプの吾郎の車には、確かに既に荷物が山積みになっていた。
慎吾からのプレゼント以外に、どうやら、剛のも載ってそうだな、こりゃ。
「どうしよっか?」
どうしよっか、って、お前・・・・・・・
俺はわざとらしく溜息をつき。
「お前、当日は何か予定、あんの?」
誕生日企画。放送は誕生日当日になるが、収録日は4日前の木曜日。当日ではない。
「ある。とか言いたい所だけどさ。ないよ、何も。仕事だし」
吾郎はつまらなさそうに肩を竦める。
「夜は?何時ぐらいに終わりそう?」
「さあ・・・・そんなには遅くはならないと思うけどね。マネージャーが一応、
そんな事を言ってたような気がする。せっかくですから、夜くらいは空けられる
ように調整しますって」
「デート、とかしねぇの?」
「・・・・それって、嫌味?」
「あ、いや・・・・・」
温度のない目で軽く睨まれて言葉を失う。
「・・・・前に約束してただろ?剛のパスタ。誕生日の日についでだから、
作ってやろーか?お前んちで」
「ほんと?いいね。嬉しいな。じゃ、その時に早速、これに活躍して貰えそう
だよね」
吾郎は手にしていた銀色のそれを、軽く掲げてみせる。
「・・・ってそれは中居と・・・・・」
言いかける俺に吾郎が目を細める。
「俺ね、いつかって言ったんだよ?中居くんとは、いつかって。別に一番に、
とは言わなかったから」
そう言って笑う吾郎の笑顔が、メンバー内でも噂に高い、悪魔の微笑みだった
事は言うまでもない。
・・・・お前、それじゃ幾ら何でも・・・・
俺は自分が吾郎から口説き落とそうと思っていた事など、すっかり忘れて、
中居が気の毒に思える。
「ま、中居くんもね、期待してないと思うよ。俺、忘れっぽいし。あの人、
俺とワインなんか飲みたくないんじゃないのかなぁ」
・・・・それはそうかも知んねぇが・・・・
なんとも言えない思いで、それでも俺はこう提案していた。
「それじゃ、その時に交換、と行くか。それぞれの・・・・・」
フワリと柔らかい笑みが吾郎の顔に広がる。
「それまで預かっといてやるわ、コイツ」
俺は硬質のそれをポンポンと叩いて。
「よろしくお願いします」
ペコリと下げた吾郎の頭にもポンポンと手を弾ませた。
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