「お疲れ様でした〜」
両手一杯に荷物を抱え、やや、ヨロヨロと通路を歩いていた俺を追い越しざま
吾郎がペコリと極軽く頭を下げた。
「おぅ。お疲れ〜」
当たり前のように声を返し、俺の視線は吾郎の手元の金色の包みに止まる。
「・・・・お前、それ、どうすんの?」
俺はわざとらしく両手の荷物を、持ち直しつつ尋ねる。
俺の両手には、さっきセレクトした慎吾からのダーツセット以外に、中居からの
トランクス、剛のパスタセットまでが抱えられていた。
『車まで持ちますよ』と当然のように言ったマネージャーの言葉をどういう
理由からか断ってしまった事を、楽屋を出て数メートル、既に俺は後悔し始めていた。
「これ?」
手にしていた包みを軽く掲げて吾郎は小首を傾げる。
そんな事を聞かれる事が不思議で仕方ないと言わんばかりに。
「うちのリビングに飾るつもりだけど?」
見慣れたヤンワリとした笑顔が、酷く意地悪く感じられるのは俺の気のせいでは
ないんだろうと思う。
「なんで?」
なんでそういう発想になるんだ?
「記念に」
「記念?何の?」
「木村くんに誕生日プレゼントを贈ったけど、受け取って貰えなかった記念」
「・・・・なんだ、それ・・・・」
俺は言葉を続ける事が出来ない。
「俺としては凄く真面目に選んだつもりだったんだけどね。どうやら、あんまり
お気に召さなかったみたいだったから。折角だし、うちのリビングに彩りを
添えて貰おうかと思って」
相変わらず綺麗な笑顔のままそう口にするこいつは、多分、メンバーの中で
一番扱いづらくて、性格が悪いと思えて仕様がない。
「木村くんも気が向いたら、たまにはうちまで見に来てよね。それじゃ」
ニッコリと笑ってコートの裾を翻して俺の横を通り過ぎようとする吾郎の腕を
掴まえようと手を伸ばしかけた途端、手にしていた荷物がバラバラとその場に
散乱した。
「ちょ?!大丈夫?!」
吾郎が驚いたように振り返って、その惨状に少しだけ眉を顰める。
俺は吾郎が足を止めた事をこれ幸い、荷物を跨いでその腕を掴む。
「何?」
不思議そうに掴まえられた腕を見遣り、吾郎が眉を寄せる。
「それ、自分ちに飾って虚しくねぇの?」
「うん」
「だって、それ、俺にくれるつもりだったんだろ?」
「そうだよ。でも、いらないって言ったのは木村くんだしね」
「言ってねぇだろ、そんな事」
「言葉で言わなくても態度でそう表したでしょ」
「・・・・何?お前、もしかして、怒ってんの?」
まさか・・・・とは思ったけど。
「まさか。どうして俺が怒るの?」
「いや。怒ってねぇんだったら、普通は・・・・」
俺は廊下に散乱しているプレゼントの山にわざとらしく視線を流す。
「あぁ。中居くんも剛も持って帰るのが面倒なんじゃないの?」
・・・・・かわいくねぇ・・・・
「俺のはそんなに嵩張らないしさ、持って帰るの、全然苦じゃないから」
ニッコリ笑って用は済んだとばかり、歩き出そうとする。
ここで散乱している荷物を拾うのを手伝おう、とか、持つのを手伝おう、とか
言う発想にならない所がさすが吾郎で。
憮然としてプレゼントを拾い始めた俺の目の前に、不意に悪戯っぽい笑顔が
飛び込んで来る。
「・・・・ひょっとして・・・・欲しい、とか?」
「・・・・・いらねぇよ・・・・・」
こうなったらこっちも意地だ。そうそう吾郎の思うようになって堪るか。
そして、こう答える事で、俺は内心で結構、吾郎の次の反応を楽しみにしていたり
する。
吾郎のヤツ、どんな顔、すんだ?
「あ、そう」
ところが、吾郎のヤツ、いきなりあっさり笑顔も何も引っ込めて、さも当たり前の
ように歩き出そうとしやがる。
全く反射的にその足首を掴んでしまった俺。
「うわっ?!何すんだよ?!転ぶじゃないか?!」
元々、反射神経がそんなに良くない吾郎は、露骨に前につんのめって、床に激突する直前、
辛うじて体を支えようと手をついた。
その瞬間、カツン!!と硬質な音が廊下に響き、吾郎の手にあったものが廊下に転がった。
「「あっ?!」」
叫んだのは二人同時で。
意外な素早さで態勢を立て直した吾郎が慌てたようにそれに手を伸ばし、恐る
恐る被せられてあった包みをとる。
あちこち点検するように丁寧に見ながら、ホッとしたように全身で息をつき、
そうして、安心したような笑顔で俺を振り返る。
「大丈夫。どこにも傷とか入ってないみたいだよ」
そして、もう一度丁寧に包みを被せ直し、俺の目の前にそれを差し出す。
一瞬、訳が分からず、ボケッとそれを眺めていた俺に、吾郎はクラクラする
ような綺麗な笑顔で
「お誕生日、おめでとう。ちょっと、意地悪しちゃったけどさ・・・・」
そう言いながら俺の手元に包みを差し出して来る。
「・・・・サンキュ」
それを受け取り、俺もつられて笑みを零す。
・・・・・可愛くねぇヤツ・・・・
・・・・・可愛いんだけどよ・・・・・
俺は全く突然、吾郎の頭を抱え込み、グシャグシャとその髪をかき乱す。
「ちょ?!何すんの?!やめてよ!!」
慌ててジタバタと抵抗する吾郎を抑え込み
「今日はもう収録ねぇし、いいんだよ」
俺は完璧に勝手な言い分を吾郎に押し付ける。
「良くないよ!!これから人に会うんだからさ!!」
吾郎の声に手が止まる。
・・・・これからって・・・・もう10時過ぎてんぞ・・・・こんな時間に
誰と会うんだよ・・・・・?
俺はその手でセッセと吾郎の髪を撫で付け
「わりぃ、わりぃ。ま、楽しんで来いよな」
思いっきり含みのある笑いで吾郎を見送る。
「・・・・何だよ、何かやらしい想像してんじゃないの?」
俺の笑みを不服そうに見遣りながら吾郎はそれでも先を急ぐのか、
「それじゃね」
と軽く手を上げてあっさり帰って行く。
ふんわりとアロマ系の僅かに甘い香りを辺りに残して。
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