そんな事があって、俺の目はいつの間にか気がつくと、いつもそいつを映してた。
そいつのそばにはいっつも、背のちっこい茶色の髪をした・・・・ヒロちゃんって、そいつは
呼んでて、キムラくんにはナカイって呼ばれてるヤツがくっついてて。
そいつはいつも、何をするにもヒロちゃん、ヒロちゃん、て、甘えて。
その横でいっつもキムラくんが二人にちょっかい掛けてて、二人がバトりそうになると
どこからともなくつよぽんが現れて、そいつの注意を上手く、惹きつけて二人の傍から
連れ出して。
いつの間にか居なくなったそいつに気付いて、また、キムラくんとナカイくん?がそいつを
捜しに行くだとか。
いつも、おんなじ事、繰り返してるみたいなのに、何か楽しそうで。
でも、ただ見てるだけの自分が面白くなくて。
そんな風に、ちょっとアイドルみたいにチヤホヤされてるそいつに、俺は隙を見て
ちょっかいを仕掛けた。
七夕の飾りつけって言うのをやって。
小さい組の時はほとんどセンセイが作ってくれた飾りをただ、飾るだけだったけど、
大きい組になってからは自分で飾りも作って見ましょう、って事になって。
センセイが説明してくれる通りに折ったり、切ったりしてたら、ほんとにそういう飾りが
どんどん出来て来て、それが凄く楽しくて。
ふと見たら、あいつは全然、出来てなくて半分ベソかきながら、後の半分はヒスってて。
「もう!!なんだよ、これっ!!全然、出来ないじゃん!!もぉ、やだっ!!」
とか。バーン!って、カラーペンとか放り出しちゃって。
そうしたら、案の定。
「ゴロー。何やってんだよ?ヒスってたってしょーがねぇべ?ほら、ペン、ちゃんと拾えよ。
手伝ってやっからよ」
「俺に任せとけって。ナカイなんかよりも数倍、俺の方が上手ぇんだからよ」
「あぁ、ここね、ここの折り方が間違ってるんだよ。だからね、広げた時にちゃんと
ならないんだよ。惜しかったね?もうちょっとだったのに。大丈夫。ゴローちゃんだって
ちゃんとやれば出来るよ。ほらさ、ナカイくんもキムラくんもさ、いつもそーやって
ゴローちゃんの事、甘やかしてばっかりいないでさ。ちゃんとゴローちゃんにも自分で
頑張らせなきゃ」
とか。
わらわらといつもの3人に取り囲まれて、真ん中でほわほわとただ、笑ってたりだとかして。
・・・・ムカツク・・・・
その辺に放り出してあったそいつの折り紙見つけて、中からピカピカ光る銀とか金とかの
折り紙を抜き取る。
「やーい!イナガキゴロー!!」
そして、わざと大きな声で、頭の上で折り紙、振って見せたりだとかして。
そいつがイナガキゴローって名前だって、センセイに教えてもらったから。
「え?」
って。ちょっとびっくりしたみたいにこっち見て。
ちょっと困ったみたいに俺を見て。
どうしていいのか分かんない風にイナガキゴローは、ただ、こっちを見てる。
「それ、僕の?」
かなり時間が経ってから、漸く、イナガキゴローはそんな質問を俺にして来て。
「そう」
俺はわざと、多分、意地悪く見えるだろうなって顔で笑って見せた。
「・・・・欲しいの?」
・・・・・違うだろぉ?!何でそういう反応なんだよぉ?!
「欲しくない」
「じゃあ、返してよ」
「べーだ!」
「え?どうして?」
「嫌だから!」
そうしたら、たっぷり1分ぐらいは俺をまじまじと見詰めて、イナガキゴローは
「じゃあ、いいよ。それ、あげる」
とか言って。
また、すぐ、俺の事なんか何にもなかったみたいに、3人の方に向き直って、飾り作りを
し始めて。
キムラくんとナカイくんが、ずっと俺を睨んでる。
「こんなもの、いらない!」
銀と金の折り紙をその輪の中に投げつけて。
力を入れてぎゅっ!!って掴んで投げつけたから、それは変な風に折れ曲がって。
「あ・・・・」って。
小さく呟いて、イナガキゴローはその折り紙を見詰めた。
「おめぇ?!何しやがんだよっ?!ゴローに謝れっ!!」
「大体、何で欲しくもねぇくせに盗ったりだとかすんだよっ?!お前、何、考えてんの?!」
ナカイくんとキムラくんが口々に言い立てて、俺に詰め寄って来る。
つよぽんは床に落ちた折り紙の皺を一生懸命、伸ばしていた。
「だ、だって!だって!!」
けど、俺はその後の言葉を続けられない。
だって、理由なんかない。
何となくムカついただけなんて、言えない。
今にも二人が俺に掴み掛けようとした時
「いいよ、別に・・・・剛が皺、伸ばしてくれたし・・・僕、そんなに使わないから、
金とか銀とか」
ほわほわとした、頼りない声が二人の背中に投げ掛けられて、二人は1度にそちらを
振り返って。
「俺のやるからよ。俺の金、やるから」
「んだよ?!金、やんのは俺だろぉが?!お前は銀!」
「何で俺が銀でおめぇが金って決まってんだよ?!」
「なんででも、だよ!」
「意味、分かんねぇだろ?!」
「なんだとぉ?!」
「やるか?このヤロォ!!」
「おぅよ!!望む所だっ!!」
「二人ともっ!!」
今にも取っ組み合いの喧嘩を始めそうな二人に、イナガキゴローが少し大きな声を上げた。
「・・・・あ、冗談、冗談だかんな」
「け、ケンカなんかしてねぇからな、俺ら」
「ほんっとに、二人は飽きないよねぇ」
イナガキゴローの後ろで、ぽつん、とつよぽんの呑気な声がして。
「ほら、早く飾りつけしないと。後、残ってるの、俺達だけみたいだよ?」
意外に冷静につよぽんがそんなセリフを口にして。
・・・・・結局、俺はいつの間にか、また、蚊帳の外に置かれてしまった・・・・・
それからも俺は事ある毎にイナガキゴローにちょっかいを掛け続ける。
イナガキゴローがブランコの順番を待ってるのを見つけては、わざと押し退けて、横入り
したりだとか。
「どけよぉ!俺が先ぃ!!」
週のうち、二日はお弁当の日で、後の二日は幼稚園で用意してくれる給食の日で、後の
1日はお昼までの日って決まってるんだけど。
その給食の日、お味噌汁の具の油揚げを残してるのを見て、わざとそれを咎めて見たり、
だとか。
「わーるいんだぁ!!折角、給食のおばさんが作ってくれてんのに、残してやんのぉ!!」
飼育当番の時に、ビビリのイナガキゴローは飼育小屋に入れなくて、小屋の入り口で
恐々、中覗いてるのを囃し立てたりだとか。
「だっせぇ!!ビビってやんのぉ!!男のくせになっさけねぇ!!」
意気地なしのイナガキゴローは、そんな時、うるうると目に涙を溜めて、ちょっと
悔しそうに俺を睨んで。
でも、それだけだった。
特に何かを言い返して来る、とか、仕返して来る、とか言う事もなくて。
イナガキゴローがそんな風にして、ほとんど無抵抗みたいな雰囲気だから、キムラくんとか
ナカイくんとかも、すんごく何かを言いたそうに俺を睨んで来るけど、ただ、それだけで。
何か、一生懸命、ちょっかい掛けてるのに、無視されてるみたいな気になって。
それはそれで、すんごく面白くない気がしてた。
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