夏休み最後の日曜日。
大きい組さんになってから仲良くなった友達5人で、神社の縁日に行く約束をしていて。
「子供だけじゃダメよ。危ないから」
ママがにっこり笑って、案外、冷たく言い放ってくれる。
「だったら、ママも一緒に!」
ママの手にぶら下がるようにして掴まりながら、その手を右左に振って、ママの顔を覗き
込む。
「そうねぇ。じゃあ、ヒロちゃんのママも誘って一緒に行こうか?」
ママとお隣のヒロちゃんのママは大の仲良しだから、きっとヒロちゃんのママもOKして
くれるよね。
携帯でヒロちゃんのママに電話を掛けたママは、なかなか目的のお誘いはしてくれなくて、
他の色んなお喋りもし始めて、結局、縁日の件はどうなかったのかは、はっきりとは分から
なかったんけど。
それでも、夕方、ちょっといつもより早めのお夕飯を済ませた後、ママが浴衣を着せて
くれた。
ボクの大好きな青い色に人気のアニメキャラクタープリントの。
ほんとの事言うと、ちょっと子供っぽくてイヤだな、って思ったけど、それを着せてくれ
てるママが凄く嬉しそうだったから、ま、余計な事は言わない方がいいかって気分になって。
下駄をはいて外に出たら、まるで、示し合わせたようにヒロちゃんちも外に出て来てて。
「「あーーーーっ?!」」
ボクとヒロちゃんはお互いを指差しながら、一緒に叫んで。
「母ちゃんっ?!」
いきなり、ヒロちゃんが噛み付くような勢いでヒロちゃんのママに怒鳴って。
「な、何でっ?!何で、ゴローとおんなじのなんだよっ?!」
ヒロちゃんは真っ赤になって叫んでる。
「あらぁ。可愛いでしょう?お揃いなのよぉ」
ヒロちゃんのママはヒロちゃんが今にも泣き出しそうに怒ってるのに、全然、そんな事は
気にもしてないみたいで、にこにこ笑って。
「去年のシーズンオフにバーゲンで安くなってたから、ついでにゴローちゃんの分まで
買っちゃったvv」
語尾にハートマークでも踊ってそうな楽しそうな口調でそう言ってるのを聞いて、ボクは
顔面ソーハクになった気がした。
シーズンオフのバーゲン品なのぉ?これぇ?!
そんなの・・・・そんなの・・・・
ボクのビイシキが許さないじゃんっ?!
ひくひくと唇を引き攣らせているボクにはお構いなしにうちのママまで
「ほんと助かっちゃうわぁ。ヒロちゃんのママってば、バーゲンの達人ですもんねぇ。私
なんて、バーゲンに行ってもなかなか目的のものをゲット出来ずに帰って来ちゃうからぁ」
なんて喜んじゃってたりして?!
喜んでる場合じゃないでしょ?!
ヒロちゃんのママもさ!
ヒロちゃんの他にもまだ、2人も上にお兄ちゃんとか居るんでしょ?!
ボクの心配までしてくんなくていいよっ!!
仲がいいのにも程があるよねぇ。
いつもだったら、手を繋いで歩くはずのボクとヒロちゃんだけど。
さすがに今日だけは、お互いのママを間に挟んで、ボクとヒロちゃんはなるべく並ばない
ように離れて歩いた。
神社の大きな鳥居の所にはもうキムラくんとツヨちゃんとシンくんが来てて。
それぞれのママが3人で何か楽しそうに喋ってて、キムラくん達は何となくぼんやりと
突っ立っていた。
ボク達の姿を一番に見つけたシンくんが
「おーい!!」
って大きく手を振ってくれて。
ママ越しに見たヒロちゃんがそっぽを向いてるので、ボクがヒロちゃんの分まで手を
振り返してあげた。
そうしたら、いきなり、満面笑顔のキムラくんが駆け寄って来て。
「おっせぇよ!!」
何て言いながら、それでも凄く嬉しそうに笑ってて。
少し遅れてツヨちゃんとシンくんもやって来て。
「わぁ?!ゴローちゃんとヒロちゃん、浴衣だぁ?!」
ツヨちゃんがまず、その事に気付いて。
「あ、ほんとだぁ。可愛ーい」
シンくんがぎゅって抱きついて来て、キムラくんに思いっきり叩かれてる。
・・・・・痛そぉ・・・・・
シンくんの体から振動が伝わって来るもん・・・・・
大きい組さんになって始めの頃はシンくんに苛められたりして、ちょっと幼稚園に行くのが
イヤになった事もあったけど。
でも、今はトモダチで仲良しで、シンくんはすぐにこんな風にしてぎゅーって抱き締めて
来たりする。
ちょっと息が苦しくなったりして、少しだけイヤだけど、でも、意地悪でそうしてるん
じゃないって分かってるから。
「こら!シンゴ!!離れろよっ!」
キムラくんがシンくんを引き離してくれて、ほっとする。
こういう時のキムラくんはほんとに頼りになって、同い年だけど何だかお兄さんみたい
だなって感じる。
「・・・・え?」
シンくんを引っぺがして、改めてボクを見たキムラくんが眉を顰めて。
「え?」
見る間にキムラくんの表情が険しくなって、ボクは首を傾げた。
「あの・・・・」
黙り込んだまま、ボクとヒロちゃんとの間に何回か視線を往復させるキムラくんに恐る恐る
声を掛けると。
「お前ら、ペアルックなの?」
キムラくんは凄くマジメな顔でそんな質問をして来て。
「ペアルックって?」
あんまり聞いた事のない言葉にそんな質問をしてみると。
「2人でおんなじ服着るの、ペアルックって言うんだよ」
不機嫌そうな顔でキムラくんは低い声でそう教えてくれて。
何か怒ってるみたいでちょっと怖い。
「タッくんてば、おませさんね」
ママ達がそう言って笑うけど。
キムラくんは全然、笑ってない。
「あ、ほんとだぁ。ゴローちゃんとヒロちゃんの浴衣、お揃いなんだねぇ?」
「帯の色が色違い」
ツヨちゃんとシンくんが新しい何かを発見した時みたいに嬉しそうに声をあげた。
「ヒロちゃんの帯が紺色で、ゴローちゃんが水色なんだぁ」
のほほん、と。
細い目をもっと細くしてツヨちゃんがボク達の帯を指差した。
そう言われて初めて。
あぁ、そう言えば、って。
おんなじ浴衣のはずなのに、何だか印象が違うな、って感じてたんだけど、始め、ヒロちゃんの
浴衣姿見た時に。
着ている人が違うからそうなんだろう、とも思ってたけど。
そっか・・・・帯の色が印象を変えてるんだ。
青地の浴衣に紺の帯を締めたヒロちゃんは、同じ浴衣でもちょっと渋く引き締まって
お兄ちゃんな雰囲気。
そして、同じ青地の浴衣でも明るい水色の帯を締めたボクは、全体的に明るさを増した
ヒロちゃんのそれに比べれば、少し幼い雰囲気で。
そっか。おんなじ浴衣でもこんな楽しみ方、って言うか、そういう着こなしが出来るんだ
って発見に、ボクの不機嫌は随分と少なくなって。
この際、シーズンオフのバーゲン品である事にさえ、目を瞑ってあげようか、って気に
なった。
「そうして2人並ぶと、ほんとの兄弟みたいだね?」
そんな風に続いたツヨちゃんのセリフに、キムラくんがぐいっとボクの腕を引っ張った。
突然、案外、強い力で引っ張られて、バランスを崩したボクはキムラくんにぶつかりそうに
なって。
「おっと!」
反射的にキムラくんがボクを抱き止めてくれる。
お風呂上りなのか、石鹸の匂いと、洗いたてのシャツのお日様みたいな匂いがボクを包んで。
「大丈夫か?」
笑った顔が凄く近くて、ちょっとだけどきどきする。
「ありがと」
お礼を言って、ボクは体勢を立て直して少しだけキムラくんと距離を取る。
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