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いつもの時間、
いつもの場所、
いつもの相手。
見慣れたあいつの顔。
「女のコって、どんなものもらったら、嬉しいのかな」
いつも見慣れているはずのあいつの顔が、今日は微妙に緊張してる。
「私の場合はねー・ ・ ・」
「お前のことなんて聞いてないよ」
ソッコーで遮られる。
ムカッ?!それが人にものを尋ねる態度?!いい度胸してんじゃないの!!
「さぁ・ ・ ・ヒカリモノが好きなコなら、サイバラさんとこのアクセなんて
いいと思うし、甘いものが好きなコなら、ダッドさんのとこでアップルパイとか、
チーズケーキとか、オーソドックスにお花が無難でいいんじゃないの。
あっ、もち、うちでラッピングもお忘れなく」
投げやりに答えて、ちょっとだけ後悔する。
思いもかけなかった少し傷ついたような顔。
「もうすぐクレアさんの誕生日なんだけど、クレアさんって何が好きかな?」
ハィハィ・ ・ ・
わかってましたけどね。
クレアさんの誕生日ねー。
どうしてあんたがそんなこと、知ってんのよ?
どーせ、私の誕生日なんて覚えてないんだろーね・ ・ ・
今までお花の1本もくれたこと、なかったもんね・ ・ ・
「彼女なら何でも喜んでくれるんじゃないの」
今度はちょっと真面目に。さっきの埋め合わせ。
「何でも・ ・ ・ね・ ・ ・」
でも、あいつはその答えはいたく気に入らなかったらしく
わざとらしいため息。
人が真面目に答えてやってるのに、なんなんだー!その態度は?!
「ポプリに聞いてもらえば?あのコ、やたらとクレアちゃんに
なついてるじゃない」
私のセリフにあいつは益々不機嫌になっていく。
「ポプリは・ ・ ・ダメだよ」
はぁー・ ・ ・
今度は私がわざとらしくため息をつく番。
「また、ケンかしたわけ?」
あいつはとにかくやたら過保護で、周りの人間はみんな口には出さないけど、
あれじゃ、ポプリが可愛そうだよ・ ・ ・と思っていたりする。
(カイのことは別として)
そりゃ、ポプリは甘やかされて育ったことがありありの、
世間知らずなとこあるし、ちょっとわがままちゃんで、
危なっかしくて、あんたが心配する気持ちもわかるけど・ ・ ・
お父さんの分まで自分が頑張らなくちゃ、
って思ってることも知ってるけど・ ・ ・
ポプリももうそんなに子供でもないよ。
私がこもごも思いを巡らせている間も、あいつは珍しくケンカの原因で
あろう中心人物の名は口にしようとはしなかった。
いつもはこっちが何を聞かなくても、マシンガンのように
悪口を言いまくってたのに。
おかしいな・ ・ ・
そう思いながら私から話しを振ってみる。
「あんたもいい加減、分かってあげなよ、ポプリの気持ち」
「ポプリの気持ちなんて、今更、分かり切ってるぐらいわかってるよ」
あいつは不機嫌さ丸だしで唸った。
「大体、あいつがこの町にやって来たときから・ ・ ・」
「そんなにカイが気にいらない?」
私の問いにあいつはジッと私を見つめた。
や、やだ・ ・ ・急にマジな顔しちゃって・ ・ ・
な、何だって言うのよ・ ・ ・
こんな風に真面目な顔で見つめられるのは、もしかして、初めてかも・ ・ ・
ふっと、そんなこと思ったら、急に胸がドキドキしてきた。
やだ・ ・ ・あいつは他の人のことが好きなんだよ、なのに・ ・ ・
急に涙がこぼれそうになって、慌ててあいつから顔を背ける。
「ヤツの人格や性格、その他モロモロは気に入らないし、
あんなヤツが自分の弟になるのかと思うだけで・ ・ ・!!」
憎々しげに言いかけて、あいつは不意に黙り込んだ。
「どうしたの?今日はいつもみたいに悪口言わないんだ」
不思議に思って聞くと・ ・ ・
「お前と言い争いになるのは、嫌だから」
(えっ?)
そして、怒ったように早口で付け足した。
「お前が泣くとこなんて、もう、見たくないんだよ」
はぁー・ ・ ・
心の中で深い深いため息。
遅い。遅過ぎるよ。
今更、そんなこと言ってもらっても、喜べもしない。
他の人が好きってわかってる相手から、そんなこと言われても・ ・ ・
あんたはほんとに底無しのバカ・ ・ ・
鈍感・ ・ ・
そして、そんなあんたを好きになっちゃった私は、もっと大バカ。
でも・ ・ ・
気づいてたよ、私。
あの日以来、私の前であんたはヤツの話しをしなくなったね。
私の目ににじんだ涙、ちゃんと気づいてくれてた。
あんな酷いセリフだって、本心じゃないってことくらい分かってた。
病弱なお母さんのために、薬になる花を探して旅立ってしまったお父さんの
変わりに、お母さんを支えて、妹を守って、鶏達の世話をして・ ・ ・
あんたの肩にのしかかっている重荷を、少しでも
軽くしてあげたいと思ってたよ。
時々、重責につぶされそうになるあんたを、
支えてあげたいと思ってたよ。
ずっと・ ・ ・ずっと・ ・ ・
いつも・ ・ ・いつも・ ・ ・
でも、それは私じゃなかったんだね。
あんたは他の人と頑張っていきたいと思ってる。
じゃあ、私の答えは一つ。
「クレアちゃんに聞いといてあげるよ。誕生日のプレゼントのリクエスト」
その瞬間、あんたの顔に広がっていった笑顔。
悔しいけどとびきり素敵な・ ・ ・
その笑顔は彼女のものなんだけど、彼女に向けられるものなんだけど・ ・ ・
今だけはいいよね。私が一人占めしても。
失恋決定の記念に・ ・ ・(end)
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