キラキラと紺碧の空にさざめくようにひそやかに輝く星達。
届きそうな気がして手を伸ばす。
「早まっちゃ、ダメ!!」
緊迫感を伴った声が音のない空に吸い込まれて行く。
振り向くとそこには、月明かりに照らし出された金色の髪が
周囲の闇を払うように輝いている。
「クレアさん?早まるって、一体・・・?」
彼女の顔色は月明かりのせいではなく、血の気が引いて蒼ざめていた。
「えっと・・・あの・・・」
クレアさんは何か言葉を探そうとして、でも、見つけられずに
困ったようにボクを見ている。
「ボク、星を見てたんだよ」
ボクの言葉にクレアさんは、ほぉっ・・・と大きく息をついた。
そして、その顔は見る見る朱に染まっていき、それは暗い星空の下でも
見て取れるほどだった。
そして、へなへなとその場に崩れ落ちていく。
「クレアさんっ?!」
ビックリして慌てて腕を伸ばす。
クレアさんを支えるつもりで腕を掴んだら、思ってたより全然
軽くて、勢い余った彼女がドン!とボクにぶつかってきた。
ほとんど反射的に彼女を抱き止める形になって・・・
「ご、ごめん・・・」
慌てて彼女から離れようとして、彼女の体が小刻みに震えて
いることに気付く。
ボクはどうしようか少し迷って・・・そのままそっと彼女の背中に
腕を回す。
彼女は震える手でボクの服をキュッと握ったまま
「ごめんなさい、私・・・勘違いしちゃって・・・ほんとに・・・」
弱々しい声で泣きそうに呟き、
「安心したら急に力が抜けちゃって・・・」
泣き笑いみたいな顔でボクを見上げる。
「ごめん、驚かせちゃってみたいで・・・」
目の前で今にも飛び降りそうな人を見れば誰だって止めるだろうけど。
でも、ボクのことをこんな風に一生懸命に心配してくれる人がいるなんて、
少し信じられない気がして。
「私、ほんとに怖くて・・・クリフくんが目の前からいなくなっちゃう
って思ったら・・・」
笑みが戻りかけていた彼女の目から、大粒の涙が後から後から溢れ
幾つも零れ落ちて、月明かりに照らされてキラキラと光りを放つ。
まるで星達が零れ落ちるみたいだ・・・
ボクは何か目に見えない力に引き寄せられるように、彼女に顔を
近付けて、恐る恐るその唇のそっと自分のそれを重ねる。
彼女が一瞬大きく目を見開いて、ボクは慌てて彼女の体を離した。
途端に彼女はペタン・・・と硬い岩肌の上に座り込んで。
彼女はまだボクが何をしたのかよくわかってないのか、ボーッと
前を見たまま、身じろぎもせず座っている。
溢れていた涙はすっかり渇いていて。
「クレアさん・・・?」
ボクは心配になりちょっと遠慮がちに声をかける。
ボクの声にハッと我に返ったように、彼女は両手で口元を押さえて
耳まで真っ赤になった。
「ご、ごめん、ボク・・・」
我に返ったのはボクも同じで。
クレアさんの目から零れる涙があんまり綺麗で、つい、あんなこと
しちゃったけど、良く考えてみれば・・・まずかったんじゃないかな・・・
どうしよう・・・
「クレアさん・・・ごめん・・・ほんとに」
クレアさんの頭が小さく横に揺れて、綺麗な金色の髪がふわりと左右に
広がる。
「そんなに謝らないで・・・」
闇の中に溶け込むような静かな声がボクの耳にも届く。
「びっくりしただけ・・・」
そして、ちょっと息をついて。
「嫌じゃなかった・・・から・・・」
ボクの中にキラリと光る何かが舞い降りたようだった。
どんなに手を伸ばしても届かないと思ってた。
届かないと分かっているから、ボクは手を伸ばすことすら
躊躇(ためら)っていた。
けれど、今、ボクの目の前には、手を伸ばせば届くほど近くに
輝く星がある。
そのことを確かめたくて、もう一度、手を伸ばす。
そのつややかな髪にそっと指を滑らせ、柔らかな頬に手を添える。
「もう一度、キスしてもいい?」
クレアさんは恥かしそうに頬を染めて、小さく肯いた。
ボクはそこにある確かなぬくもりを感じながら。
やっと、見つけた。ボクの大切な、小さなお星様。
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