吐く息がフワリと浮いて、白く踊る。
僕は襟元のマフラーに顔を半分埋めるようにして、いつもにも増して賑やかで
騒々しい商店街をボンヤリと眺めながら歩く。
通学路の途中にこういう商店街があるっていうのは、余り好ましい環境とは
思えないけれど。
それでも、一応、ここを通学路と指定されている以上、僕はこの商店街を
通って通学さぜるを得ないわけだし・・・・・
商店街はもう1ヶ月くらい前からバレンタイン商戦に突入していて、来週に
迫ってきているその日に向けて、最後の宣伝合戦に余念がない。
どこか真剣で、不安げで、けれど、楽しげな女の子達とすれ違う。
何人かは僕の見知っている子も居て、僕の存在に気付いて、真っ赤になって
踵を返す子や、不可思議な笑みを浮かべて、ジッと見詰められたりとか・・・・
反応もそれこそ、色々なんだけど・・・・
僕はそして、彼女達の背中に少しだけ小さく溜息をつく。
・・・・今年こそは・・・・・
休もう。
毎年、そう思いつつ、特にこれと言った理由もなく、学校をさぼる、という
行為に僕は酷く躊躇いがあって。
重い足を引きずるようにして登校し、上履きに履き替えようと靴箱を
開けた途端、足元に転がり落ちてくる、幾つかの包み。
僕は他の人に気付かれないように溜息をつき、それを一つ一つ拾い上げ・・・・
ランドセルの中から紙袋を取り出し、その中に入れる。
用意が良過ぎる?
けど、正直な所、凄く困るから。
1、2年生の頃は、まだ、2、3個ぐらいしか貰わなかったから、ランドセルの
中に押し込んでたけど・・・・
3年生になって7個、4年生になって12個と、段々数が増えて・・・・
去年12個貰った時に、本当に困ったんだよね。どこにも入れられなくて、結局、
両手で抱えて帰って。
見せびらかしてるみたいで凄く嫌だったし、けれど、持って帰らない訳に
いかないし・・・・
で、結局、今年は紙袋持参という訳。
ところで・・・・
・・・・・あのさ、一言言わせて貰えば・・・・・これ、靴箱なんだけど。
靴を入れる所に、どうして、食べ物を一緒に入れられるのかな・・・・・
その神経が分かんないよね・・・・・
一瞬、そのままゴミ箱に放り込んでしまいたくなる凶悪な感情をどうにか
押し殺して、僕は全部を紙袋の中に入れて立ち上がった。
「・・・・すっげー・・・・」
ちょっと怒りを含んだような低い声がして、僕は振り返る。
その声には聞き覚えがあった。
「・・・・木村くん」
1年上の木村くんだった。
「紙袋まで用意してんだ?」
木村くんの視線は僕の左手の紙袋に止まっていて、その目ははっきりと僕をバカに
している。
木村くんは児童会の副会長で、僕がクラス委員をしていた時に、児童会の
総会で木村くんの意見に異論を唱えた事が気に障ったらしく、僕に対しては
いつも、酷く素っ気無くて、ケンカ腰だった。
僕はどう返していいかの分からなくて、ただ、黙って木村くんを見ていた。
「・・・何個?」
木村くんの口元が不意に歪んだ、と思った。
「え?」
登校時の脱靴場は行き交う挨拶の声や何やで、結構、騒然としていて、僕は
木村くんの言葉が聞き取れなかった。
木村くんと僕との距離は何メートルか離れていて、僕達の視線を遮る人影が
幾つもあったし。
「・・・・何個入ってた?」
ただ、まっすぐに僕に当てられた視線は、見ているだけで人を圧倒してしまう
ような鋭い視線で、たまに通り過ぎて行くクラスメイトが、ビックリしたように、
僕と木村くんを振り返って行った。
僕は紙袋に中に視線を落として、ざっと中身を数える。
「・・・・6個」
もしかしたら、もう少しあったのかも知れないけど・・・・
「・・・ふうん・・・・」
まっすぐ僕に当てられていた視線が揺らいで、楽しげな表情を浮かべる。
「勝った」
木村くんは愉快そうに目を細める。
・・・・それがどうしたの?
第一、別に勝負なんてしてないじゃん・・・・
僕はちょっと息をついて、そのまま、教室に向かおうと踵を返した。
途端にグイッ!!と手首を掴まれ、前に足を踏み出しかけていた僕はあっけなく
バランスを崩して、後ろ向きに倒れそうになる。
「うわっ?!」
木村くんの声がして、僕達は重なるようにして尻餅をついた。
「いってぇ〜〜〜〜!!」
派手な叫び声がすぐ後ろから聞こえる。
「早くどけよ!!重いって!!」
言われて僕は漸く、自分が木村くんを下敷きにしている事に気付いた。
・・・・道理で。あんまし痛くないと思った・・・・
僕はゆっくりと立ち上がって、木村くんを振り返った。
「信じらんねぇ!!何で?!何であんな何もない所でコケんの?!」
木村くんは結構、人通りもある場所で派手に叫んでしまったのが恥かしいのか、
うっすらと赤くなって、結局、また、叫んでいる。
「木村くんが急に引っ張るからでしょ」
「引っ張ってねぇだろ!!手、掴んだだけじゃん!!」
不満げに僕を睨みつける。
・・・・そうかも知れないけど・・・・
僕は取り敢えず反論せずにいる。
少しの間、二人で黙ったまま向かい合って立っていて・・・・・
「・・・・何か用?」
僕は口を開いた。
僕を掴んだって事は何か用があるって事だって気付いたから。
「いや、普通聞くだろ?チョコの数、聞かれて『勝った』とか言われたら」
・・・・あぁ、聞いて欲しい訳ね。
「何個貰ったの?」
全然、興味はなかったけど。
聞かないといつまでも解放してくれそうになかったから。
「7個」
少しだけ胸を反らすようにして木村くんは得意げに言った。
「・・・・良かったね」
おざなりに言って。
・・・・嬉しいのかな?チョコ、たくさん、貰うと。
お返しが面倒、とか、思わないのかな?
僕はそんな事を思って。
「・・・・って、お前!!反応、うっすいなぁ!!悔しがる、とか、羨ましがる、
とか、ねぇの?!」
・・・・そんな事言われても・・・・・
「僕、チョコあんまり好きじゃないから」
・・・・だから、貰ってもそんなに嬉しくないし。
そう答えたら思いっきり『はぁ?!』って顔された。
「木村くん、チョコ好きなの?良かったら僕のもあげようか?」
そう言ったら、今度はすっごく怖い顔で睨まれて。
「ふざけんな!!」
木村くんは僕の横を通り過ぎざま、ゲンコツでつむじの辺りを殴って行った。
「いった〜〜〜い!!」
僕が力一杯抗議の声を上げた時には、木村くんの姿はもう廊下の角を曲って
見えなくなっていて、しかも、僕の声に重なるようにチャイムが鳴った。
もう!!
僕は走っちゃいけない決まりになっている廊下を走って、教室に滑り込む羽目に
なってしまった。
・・・・重い・・・・・
僕は脱靴場で手にしていた荷物を足元に下ろして、両手を振った。
一つ一つはそんなに大した重さのあるものじゃないけど、数が集まるとそれなりに
重量感がある。
何と言っても嵩張るし。
しかも今日は週末で、体操服だとか上履きだとか給食着だとか、そういう普段は
持って帰らなくてもいいものまで持って帰らなくちゃいけなくて・・・・
大体さ・・・・・・
勉強に関係のない物は学校に持って来ちゃいけない決まりになってたと思うん
だけど。
どうして、チョコは持って来ていいのかな・・・・・
僕は溜息をついて紙袋を見詰めた。
色とりどりの包装紙やらリボンやらが覗いていて、結構、カラフルだ。
僕はボンヤリと座り込んだまま、正直、この荷物をどうしようかと途方に暮れていた。
うちに電話して誰かに迎えに来て貰おうかな・・・・
ポケットの上から携帯を探っている所へ、甲高い声が聞こえて来た。
「ごろーちゃーん、何、やってんの?!」
慎吾だった。
「どうやって帰ろうかと思って」
笑いながら手を振って駆け寄って来る慎吾が、すぐそばで立ち止まるのを待って
僕は言った。
「何それ?!ひょっとして全部チョコ?!」
目を真ん丸くして慎吾が紙袋を指差した。
「・・・・うん、まぁ・・・・・」
「何個あんの?!」
「・・・・さぁ?数えてないから・・・・・」
僕は軽く溜息をつく。
「俺なんかさぁ、7個しか貰えなかった・・・・」
「上等じゃん。僕も3年の時は7個だったよ」
「ほんとに?!じゃあ、俺も5年になったらそんなにたくさん貰えるかな?!」
大きな目を更に大きくして、キラキラと輝かせながら慎吾が僕の目を覗き込む。
「たぶん」
安請け合いしていいのかどうか、一瞬迷ったけど。
たぶん、なら大丈夫だよね。もし、それだけ貰えなかった場合でも。
「沢山貰えると嬉しいの?」
朝の木村くんと言い、今の慎吾と言い・・・・
「そりゃそうでしょ。やっぱし。少ないよりは多い方が嬉しいでしょ」
慎吾はどうしてそんな事を聞くの、と言わんばかりに大きく頷いた。
「慎吾はチョコ、好き?」
「大好き!!」
ほとんど即答で返ってきた答えに僕はちょっと納得して。
「じゃあさ、これ、全部あげる」
僕は紙袋を慎吾の前に置いて立ち上がった。
助かった。これで帰れる。
「ちょ!!ちょっと待って!!」
慎吾の声が鋭く尖った。
驚いて振り向いた僕に慎吾ははっきりと怒った顔で、僕の鼻先に紙袋を突き出す。
「こんなの貰える訳ないでしょ?!これ、一つ一つに気持ちがこもってるんだよ。
ごろーちゃんに対する女の子の気持ち。そんな事も分からない訳じゃないでしょ」
・・・・・・・
僕はちょっと言葉に詰まって。
慎吾の言ってる事はよく分かるよ。
確かに今、僕のした事は酷い事なのかも知れないけど・・・・・
でも・・・・・
それじゃあ・・・・・
僕が嫌いな物を勝手に押し付けてくるのは、酷くないの?
バレンタインだから?だから、チョコなの?
たぶん、一生懸命勇気を振り絞って気持ちを伝えてくれてるのかも知れないけど。
僕が甘い物が嫌いだって知らなくて・・・・でも、僕の事は好き、なの?
そういうの、僕にはよく分からないよ。
僕はたぶん、凄く困った顔をしてたんだと思う。
慎吾は涙目になって僕を見詰めている。
「・・・・分かったよ。ごめん」
僕は慎吾が突き出していた紙袋を手に取る。
ホッとしたように少しだけ慎吾が表情を緩めた。
「家まで持って帰るの、手伝おっか?」
「いいよ。反対方向だし。そんなの悪いよ」
僕は反対側の手に体育着とかが入った鞄を持つ。
「いいから、いいから!!」
半ば強引とも思える遠慮のなさで、慎吾は僕の手から紙袋を引き取った。
「何個入ってんのかな?10個は下らないよね?」
慎吾は紙袋の中を覗き込んで、興味深そうに呟く。
「・・・・さぁ?」
僕は全然、興味もないので上の空でそう返して、それでもお返ししないと
いけないだろうし・・・・だから、何年何組の誰からなのかはチェックしとか
ないとダメだし・・・・そういうの、結構、面倒だよねぇ・・・・とか
そんな事を考えながら、隣の慎吾に歩調を合わせる。
まだ、三年生だけど慎吾は比較的背が高い方で、もう、僕なんかともほとんど
肩を並べるくらいの身長がある。
だから、いつもわりとのんびりしたペースで歩く僕は、うっかりそんな考え事
なんかをしながら歩いていたりすると、気がつくと慎吾からうーんと引き離されて
いたりする事もわりとしょっちゅうで。
「ごろーちゃーん・・・・」
そんな僕のペースに合わせるのが凄く疲れるらしい慎吾が、何メートルも前方から
呆れたように不機嫌そうな声を上げる。
「ごめん、ごめん」
軽くランドセルを背負い直して僕は慌てて慎吾に駆け寄って、また、二人して
歩き始めた。
「ただいまぁ」
門扉に取り付けられたインターフォンを押し、吾郎が声を掛けると
「今、開けるわね?」
優しげな返事と共に、閉じられていた門扉が僅かな金属音を伴いつつ開いて行く。
「・・・・いつ来てもビックリするんだよね、自動ってさぁ・・・・」
慎吾は吾郎の後ろに遠慮気味に突っ立ったまま、自分の意思を持っているロボットの
ような鉄の柵に、弱く声を洩らす。
「別にビックリする事でもないと思うけど?ママが開けてくれてるんだもん。
ボタン押して。僕のささやかな希望としてはさ、声紋なり指紋なりで僕を認識
して、自動で開いてくれるといい、といつも思ってるよ。そうすれば、ママが
居ない時でも鍵とかさ、煩わしいモノを持って歩かなくてもいいし、防犯上も
いいと思うんだよね」
吾郎の言葉に慎吾は明らかに気分を害したように眉を寄せて唸った。
「吾郎ちゃんのそーゆーとこ、嫌い。すぐに訳分かんない事言い出すんだもん」
そんな慎吾に吾郎は軽く肩を竦めて、それ以上はもう何も言おうとはしなかった。
色採りどりの季節の花に彩られたアプローチがエントランスまで続き、いかにも
今風の注文建築らしい洒落た外観の中にも、落ち着きのある洋風の建物が、静かな
佇まいを呈している玄関を入り
「着替えてくるから、ちょっと待ってて」
そう言って吾郎は慎吾を応接間に残し、すぐに姿を消してしまった。
・・・・ここんち来ると、いっつも応接間なんだよね。お客様扱いして貰ってる
みたいで、始めのうちは嬉しいような恥ずかしいような気がしたけど、こう、
いつもいつもだと・・・・吾郎ちゃんの部屋にも行ってみたいんだけどなぁ・・・
壁に掛けられた幾つかの水彩画は、お医者さんをしている吾郎ちゃんのパパの
趣味とかで、患者さんに貰ったものあれば、おじさんが描いたものもあるとか
行ってたっけ。
いつ来ても、花が綺麗に活けてあって、これはガーデニングが趣味のママさんが
丹精込めて育てた花なんだよね。
吾郎ちゃんも休みの日とかは手入れとか、手伝ったりもするって言ってたっけ。
そのせいで吾郎ちゃんは男のくせにやたら花の名前とかにも詳しくて、女の子に
結構、ウケがいいんだよね。男のくせにぃ、とか言われない辺りが吾郎ちゃんの
カラーなのかも知れないけど。
「お待たせしちゃって、ごめんなさいね?」
吾郎ちゃんのママがココアのカップをテーブルに置いてくれる。
「あ、いえ」
吾郎ちゃんのママに会うのは初めてじゃないし、凄く優しそうな人なんだけど、
やっぱり、大人の人だと思うと緊張しちゃって、あんまり上手く話せない。
「このお部屋、マンガとか玩具がなくて退屈しちゃうわね?何か持って来ましょうか?」
「大丈夫です。僕、わりと待ってるの得意だから」
いつ、得意になったんだろって、自分で思ったけど。
「それじゃ、吾郎に急ぐように言ってくるわね?」
確かに・・・・ママさんが言うように、着替えをするだけにしては、吾郎ちゃんは
いやに遅くて、もしかして俺が来てる事、忘れちゃって、宿題でも始めちゃった
んじゃないかって不安になってくる。
ゆうに15分は待ったと思う。
俺はママさんが淹れてくれたココアもすっかり飲み干して、ただ、化石のように
応接間のソファの上に固まっていた。
「お待たせ」
全然、申し訳なさなんて微塵も感じさせない穏やかな笑顔が憎たらしくて
「忘れられちゃったかと思ったよ!」
憎まれ口を叩くと
「まさか。慎吾じゃあるまいし」
と逆にやり込められる。
「ちょっとね、さっき貰ったチョコの贈り主、チェックしてて」
俺の前のソファに腰を下ろして、吾郎ちゃんは手に持っていた紙にチラリと
視線を流した。
「そういう事は俺が帰ってからやって下さい」
ささやかに苦情を言わせて貰うと
「うん、最初はそう思ったんだけどさ、折角、慎吾がここまで持って帰って
来てくれたからさ、何かお礼がしたいと思って。でね、貰ったチョコ、どうせ
僕は食べないから・・・・」
吾郎ちゃんのセリフがまだ何か続いていたけれど、俺はそんな事にはお構いなしに
口を挟んだ。
「食べないの?!」
「うん。チョコ、あんまり好きじゃないし。それでね、全部溶かして、ママに
チョコケーキ、作って貰う事にしたの。40分くらいで焼き上がるって。だから、
それまで宿題でも一緒にしない?」
「ほんと?!やったーーーーっ!!」
思わずソファから飛び上がってしまった。
そして、俺は学校の宿題、吾郎ちゃんは塾の宿題をそれぞれ始めた。
吾郎ちゃん曰く「学校の宿題は提出物でない限りは、その場で出来ちゃうから
やる必要がない」らしくって、塾の宿題をいつも重点的にやってるんだって。
それでも10分もしないうちに吾郎ちゃんは宿題を終わっちゃって「ITで
可能になる患者中心の医療」なんて言うタイトルの本を読み始めた。
吾郎ちゃんのパパはお医者さんで、吾郎ちゃんもお医者さんになりたいらしい
んだけど・・・・・
「そう言えばさぁ・・・・」
俺は既に宿題に飽きて来始めて、読書に耽っている吾郎ちゃんの邪魔になる事は
はっきり承知の上で話し掛ける。
「結局、何個だったの?チョコ」
本から目を上げずに吾郎ちゃんは、そんな事、どうでもいいじゃない、という
雰囲気をはっきりと滲ませて
「21個」
とすげなく答えてくれた。
「21個ぉ?!去年の最高記録とタイじゃん?!」
思わず叫んだ俺に、吾郎ゃんはちょっとだけ興味を引かれたみたいに、チラッと
本から目を上げて
「誰?誰の記録とタイなの?」
と尋ねかけてきた。
「木村くんだと思うよ。俺も噂でしか知らないんだけど。今年は誰が記録を
塗り直すだろうって・・・ちょっとした話題にもなってたみたいだったけど」
「・・・・ふうん・・・」
低く唸って、吾郎ちゃんはまた、本に目を落とす。
・・・・ほんとに、そういう俗っぽい事、興味、ないみたいだよね・・・・
俺から見ればその方が不思議な気もするけど・・・・
「・・・あのさ」
俺はすっかり宿題する気なんかなくなっちゃって、も1回吾郎ちゃんに話し
かけようとしたら
「宿題、終わったの?だったら、ゲーム、貸したげよっか?」
って言いながら、最新型の携帯ゲームをポケットから引っ張り出した。
「うわっ?!凄い!!今、CMでやってるヤツじゃん!最新型の?!」
俺はもう宿題なんかそっちのけで、そのゲーム機の虜になってしまう。
必死でゲームにのめり込んでいるうちに、あっと言う間に時間は過ぎて、
俺はママさんが焼いてくれた、ほわほわと温かくて柔らかくて甘くて美味しい
ケーキを何回もお代わりして、お腹一杯になるまでご馳走になって、結局、吾郎
ちゃんちの車でウチまで送って貰った。
そう言えばさ、結局、今年のチョコのトップ記録は去年と変わらず、6年の
木村くんの21個だったらしいんだけど、吾郎ちゃんがそれとタイ記録を
持ってるって事は、案外、知られていなくて俺はその事を言うべきなのか、
言わざるべきなのか、結構、真剣に悩んでしまった。
その事を吾郎ちゃんに話したら
「言わなくていいよ。その事知ったら、木村くん、また、僕に何か言ってくるかも
知れないしさ、そっちの方がヤだし。いいじゃない?その事で嬉しい人が喜べば。
別に僕にとっては嬉しい事でもなんでもないんだから」
って全然、愛想がなかった。
・・・・そっか。そうかな?吾郎ちゃんがそれで良ければいいんだよね?後で
もし、木村くんがその事知ったら、そっちの方が怖いかも知れないとは思う
けど・・・・
とは思ったけど、俺はその事は吾郎ちゃんには言わずに居る事にした。
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