こんなものが、何よりも大切な宝物だった頃も、確かに、あった。
甥っ子が大事そうに両手で包んでいたそれを、得意満面な表情(かお)で見せてくれて。
「吾郎さんにも1個あげる。誕生日のプレゼント」
・・・・・俺の誕生日は12月だよ、と言う突っ込みこの際、胸の中にしまって。
「ほら、綺麗でしょ?ピンクのビー玉って、凄く珍しいんだよ?吾郎さんはイメージカラーが
ピンクだってママが言ってたから、これは吾郎さんにあげる」
とても、とても、愛おしそうに、大切そうにそれをそっと俺の掌の上に乗せてくれて。
「こうしてね、お日様に翳すとね、凄く綺麗なんだよ」
とても、大切な秘め事を打ち明ける時のように、そっと、耳元に唇を寄せて。
「ありがとう」
笑顔して受け取ると、甥っ子の顔にも満面に花が咲いたような笑みが浮かんだ。
ノスタルジックって言うのかな?
何だか、とても懐かしい感じで、胸の奥で何かが疼く感じがする。
それは、まだ、真っ白なままの自分であったり、きらきらと瞳を輝かせていた頃の自分で
あったり。
何でも、素直に信じられて、何でも綺麗で輝いて見えて、世界が煌いていた頃。
眠る事が惜しいほどに、些細な発見に溢れた毎日。
ただ、そこに居るだけで楽しかった日々。
それは、今も確かに形を変えて、自分の中に現存している事は分かっているつもりで。
けれど、何か。
失ってしまった寂しさを感じるのはなぜなんだろう。
時間の経過とともに得たものも、学んだものも、身につけたものも。
数え切れないほど、両手に持ち切れないほど山のように抱えながら、何か足りない、と
感じてしまうのはなぜなんだろう。
時間を逆回しになんか出来ないし、今は今でとても充実してる。
それは負け惜しみでも何でもなく、静かに確かな自信として、自分の中で確かにその存在を
示してくれている。
だから。
失くしてしまった訳じゃない。
見失ってしまっているのでもなくて。
ただ、ちょっと懐かしさを感じるだけ。
そういうものも全部含めて、今の自分を作っているもの。
ふと、思い立って。
今時どこにでもある24時間営業のスーパーに赴き、子供向けの駄菓子なんかを売ってる
コーナーに足を運んで。
今でもやっぱりそこにある、それを手に取った。
みんな、どんな顔をするだろう?
ちょっとした悪戯を仕掛ける時のようなワクワクした気分で眠りについた夜。
そうして、次の日はスマスマの収録日。
メンバー全員が顔を合わせる、今では自分達にとって、ちょっと特別になりつつある日。
まずは同室の彼に。
「はい、これ。剛」
掌に小さなそれを乗せて。
「え?吾郎さん、何、これ?」
不思議そうに首を傾げる彼にまず、笑顔を返して。
それから、もう一つの楽屋のドアを開けて。
「はい、これは慎吾」
入り口近くの畳の上に寝そべっていた慎吾の手にそれを握らせて。
テレビの前に陣取っている中居くんにも。
「中居くんは、この色」
そして、最後に前室に顔を出す。
「木村くん、はい。これ、あげる」
「んだよ?」
掌の上に乗せたそれを指先で摘みあげて、彼は片目を瞑り、蛍光灯の光にそれを翳して
見せて。
「ん?何って、ビー玉」
「んな事ぁ、見りゃ分かんだろーよっ!!何で、突然、ビー玉なんだよ?何かあんの?
これに意味、とか」
指先を何度か捻って、光の加減を変えたりしながら、彼はそんな当然の問いを投げて来る。
そこへ示し合わせたように、どやどやと他メンバー達も集まって来て。
「吾郎さん、これ、何?」
「稲垣吾郎ぉ!!これ、何だよぉ?!」
「おめぇ、まった、何か下んねぇ事でも企んでんじゃねぇだろーな?!」
それぞれにそれぞれの言葉で、やっぱり、俺の突然の不可解な行動の意味を問い質して来る。
「そんな、企むなんて人聞きの悪い」
苦笑して俺はまた、言葉を続ける。
「昨日ねぇ、甥っ子にビー玉もらったの。ほら、これ。ピンクの。ピンクのビー玉って
珍しいらしくてね、甥っ子が凄い大事そうにくれた」
「「「「で?」」」」
ものの見事にメンバーの声が揃って。
「でね、何か凄い懐かしいかなぁ、って」
「「「「・・・・・・」」」」
「で、夜中にわざわざ24時間営業のスーパー行って、みんなの分も買って来たの」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・お前、暇だな」
「ちょっと前にね、ドラマでやっててね、虹色の戦士がどうのって。子供が出て来るドラマ
なんだけど。ちょっといいでしょ?虹色の戦士。ブルーのが中居くん。レッドが木村くん。
イエローが剛で、グリーンが慎吾。ピンクが俺で・・・・」
「5色しかねぇじゃん」
律儀に至極、ご尤もな突っ込みをしてくれる木村くんの顔の前に、人差し指を1本立てて、
ちっちっちっ・・・と左右に振って見せて。
一瞬、木村くんの眉間に皺が寄る。
「ホワイトが森くんでしょ。そしてねぇ、このマーブルがSMAP」
「・・・・なんだ、それ」
中居くんが疲れたように溜息をつく。
「一つのガラス玉の中に色んな色が織り込まれてるんだけどさ、その色は決して、混ざり
合う事はないんだよ。お互いに主張し合って、尊重し合って、それぞれがそれぞれの
色を放ってる。そして、それが一つのガラス玉の中に織り込まれる事によって、更に
複雑で深くて、変化に飛んだ色合いを醸し出すんだよ。それは一つでいて一つじゃなくて、
多であって多じゃないの。見る角度によって色んな色が見えて、それぞれの織り成す煌きが
更なる輝きを導き出すんだよ」
「・・・・・ビー玉1個でそんだけ語れるおめぇは、偉ぇわ」
中居くんがいつの間にかタバコを燻らせて、その紫煙に目を細めている。
剛と慎吾は既にどこかへ消えていて、木村くんだけが神妙な顔で俺をじっと見詰めていた。
「・・・・お前、もしかして、疲れてる?」
ふいっと立ち上がった木村くんが俺の背中に回り、肩をぐっと押さえつけて来て。
そのまま、近くにあった椅子に強引に腰掛けさせられる格好になる。
グイグイと少し乱暴に感じられる手つきで肩を揉んでくれていた木村くんの両手が、ふ、と
瞼を覆って。
「大丈夫だからな。何も心配する事ねぇから。元気出せ」
・・・・・何か誤解されてる感じ・・・・
俺、そんな変な事、言ったかなぁ?
我ながら、なかなかいい、って思ったんだけど・・・・外した?
けど、本番中、衣装のポケットにみんなそれぞれ、その小さな玉を忍ばせて、時折、
衣装の上から触れてくれていた事を俺は知らなかった。
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