『 四葉のクローバー 』
「出来た!!」
ニコニコと嬉しそうに笑って妹が空に向かって、高く腕を掲げている。
空には怖いくらい澄み切った綺麗な青空が広がっていて、見上げると
少し眩しい。
妹の手にはクローバーの花で作ったティアラ。
「はい、お兄ちゃん!!」
笑顔のまま、それをボクの頭の上に乗せてくれる。
「・・・・・ありがと」
正直な所、あんまり嬉しくはないんだけど・・・・
オトコ、だし・・・・・
でも、せっかくだから・・・・
そんな思いで笑顔を顔に張り付ける。
妹はとても満足そうに肯いて、更に別の作品作りに取り掛かる。
ボクはもう十分過ぎるくらい、十分にクローバーの花に埋め尽くされて
いるんだけど・・・・・
ネックレスにブレスレットに指輪に・・・・
そして、ティアラ・・・・・
まだ、他に何を作るつもりなんだろう・・・・・
ボクはいい加減飽きて、そろそろ家に帰りたいなぁ、なんて考えていた。
ボク達二人は周囲から見れば、ちょっと異常なくらい仲が良かったと思う。
四つ違いの妹は体があまり丈夫でなくて、同じ年頃の友達を作ることがなかなか
出来なかった。
ボクは積極的に人と交わるのは苦手な方だったので、つい、家で妹とばかり
遊んでいた。
そして、こんな風に妹の体調が良くて、いい天気の日には外に出て遊ぶことも
あって。
近所の悪戯好きで、普通に活発な男子達も、最近はさすがにボクをからかう
こともなくなった。
女の子達も遠巻きにチラチラ見てたりもするけど、気にならなくなった。
慣れてしまえば、大抵のことには順応出来るように出来てるんだなぁ・・・・
そんな環境の中でボクが得た教訓。
「あっ?!」
不意に妹が大きな声を上げた。
妹がそんな風に大きな声を上げることは、結構、珍しくてボクはちょっと
ビックリして妹の方を振り返った。
「どうしたの?」
不安になって少し離れていた妹のそばに慌てて駆け寄る。
「・・・・・・ほら」
妹の手の平には、珍しい四葉のクローバーが乗っていた。
「「四葉のクローバー」」
ボクと妹の声がシンクロする。
「はい。お兄ちゃんにあげる」
妹は嬉しそうに笑って、大切そうにそれをボクの目の前に差し出した。
「え?いいよ。持ってなよ。それ持ってると幸せになれるんだよ」
ボクはそっと妹の手を押し戻す。
「だから・・・・だから、あげる」
妹はもう片方の手も添えて、両手でその小さな幸福の葉を、ボクに
渡そうとする。
「いつも遊んでくれるから・・・・一杯心配かけてるから・・・・
お兄ちゃんのこと、大好きだから・・・・」
笑ってるはずの妹の顔が、ボクにはなんだかボンヤリ歪んで見えて、
ボクは慌ててギュッと目を瞑った。
「じゃぁさ・・・・こうしようか」
ボクは提案する。
「ママにあげよう。ボク達二人から」
「うん!!」
瞳をキラキラ輝かせて妹は、弾けるように笑った。
「そろそろ帰ろうか」
そう言い出すきっかけが出来て、ボクはちょっとホッとしていた。
あの日もこんな風に、怖いくらいにいい天気だった・・・・
怖いくらいにいい天気って言う表現も変な気もするけど・・・・・
でも、あまりにもいい天気過ぎて、どうしていいのか分からない気分に
なって来る。
空は抜けるように青くて、雲一つない。
たまに頬を掠める風が熱くも冷たくもなく、やっぱり、いい天気に違いない。
ボクはのんびりと寝そべって、空を眺めている。
でも、実際には眩しくて、ほとんど目を瞑っていたけれど。
「出来た!!」
嬉しそうな声に誘われるように視線を動かすと、得意げに白い花の束を
捧げ持っているクレアと目が合った。
いつか見たあの日と同じ光景・・・・・・
「クローバーのティアラ。凄いでしょ」
キラキラと明るい光を宿した瞳は、今日の空のように澄み切って、綺麗だった。
「うん」
確かに凄いね。
でも、ボクにくれる、なんて言わないでね。
心の中でそう付け加える。
「クリフに・・・・」
言いかける言葉を遮るように、慌ててボクは体を起こして、クレアが
持っているそれを手に取ると、彼女の頭の上に乗せる。
「どうしてわかったの?クリフにあげようとしたこと」
少しだけ不思議そうに、けれど、嬉しそうに頭にそっと手をやりながら
クレアは笑った。
「なんとなく」
経験あるから、とは言えなかったけど。
ボクにこういうものをくれようとする、その気持ちがイマイチ良く分からない
んだけど。
「女の子の方が絶対似合うよ、こういうのは、さ」
何か言われる前に付け足しておこう。
ふふふ・・・・・
ちょっと声に出してクレアは笑っている。
そして、ボクはまた、ゴロン、とクレアのそばで横になる。
何をする、というわけでもなく、こんな風にゆったりと時を過ごせることは
とても贅沢で、満ち足りた気分になる。
「あっ!!」
不思議な日だった。
あの日と同じように、同じような声が響く。
まさか、ね・・・・・
ちょっとそう思って、体を半分、起こす。
「見て!!」
予想通りの展開は少し怖い。
クレアの手にしているもの・・・・・
それは四葉のクローバー・・・・・
こんな偶然・・・・・
ボクはちょっとボーッとしてしまう。
「私、生まれて初めて。四葉のクローバー、見つけたの」
酷く感動したようにクレアはそっと、指でつまんで、しみじみそれに
魅入っている。
「ボクは2回目」
呟いたボクにクレアはとても驚いたように、凄い、を連発した。
ボクはクレアの指先からそっと、それを受け取り、クレアの左手の薬指に
結んだ。
驚いたようにボクを見たクレアに、ボクはちょっと微笑んで。
「クレアと一緒に幸せになりたいな」
パーッと赤くなって、クレアは小さく肯く。
我ながら、ちょっと気障だったかも・・・・・
確実に頬が熱くなるのを感じながら、ボクはそっとクレアを抱き締めた。
ボクは・・・・母さんや妹に幸せになってもらう事は出来なかったけれど・・・
こうして、昔のことを自然に思い出せるようになったのは、今、目の前に
いる彼女のおかげで・・・・・
だから、ボクにとっては君が『四葉のクローバー』。
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