『 ・・・・・それ、美味しいの? 』
「ク〜レ〜ア〜。ねえ、まだ、仕事、終わんないの〜?」
牧場の入り口の柵にもたれて、クリフが待ちくたびれたように
尋ねかける。
もう、これで5回目。
同じ質問を5回も繰り返して、よく飽きないわよね。
私は内心でちょっとげんなりしながらも、なんとか
声だけは優しげに
「ごめんね〜。もう少しだから〜」
仕事の手を止めることなく答える。
そりゃあ、仕事が終わったら一緒に飲みに行こうって
約束したけど・・・
まだ、5時にもなってないのに・・・
だいたい、果樹園は仕事が終わるの、早過ぎるのよね。
私のイライラは果樹園にまで飛び火して。
私はなんとかイライラを鎮めようと鍬を握り直し、
力一杯地面に振り下ろす。
サクッ、サクッ・・・
慣れるまでは大変だった畑仕事も、さすがに最近では
体がそのリズムを覚えたようで、だいぶ、スムーズに
仕事がはかどるようになって来た。
それで、少し畑のスペースを広げようと思って。
サクッ、サクッ・・・
地面に食い込む鍬の音が小気味良く辺りに響く。
「ク〜レ〜ア〜。・・・」
6度目のクリフの問いかけが耳に入りかけた時、手元にいつもと
違う感触を感じて、慌てて手でそっと土を掘ってみると
オレンジ色で少しリンゴに似た形の木の実のようなものが
出て来た。
前に一度、泉の洞窟で鉱石掘りをしていた時にも見つけたことが
あって。
食べて見ると、力が湧いてくる不思議な実。
私は丁寧に土を払ってから、オーバーオールでキュッキュッと
こすって、その実を丸かじりした。
土の中から出てきた見たこともない実にかぶりつく私を
ボーゼンと眺めていたクリフは、私と目が合って一言。
「・・・・・それ、美味しいの?」
なんだか奇妙なものでも見るような顔で、恐る恐る尋ねたのだった。
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