3月3日。
今日はひな祭り。
幼稚園で色紙って言う四角い紙に、折り紙のお雛様を貼り付けた壁飾りってゆうのを作った。
うちは男の兄弟ばっかりだからお雛様なんて言うのは当然なくて。ひな祭りなんつーのも
全然、関係なくて。
幼稚園に飾ってあったヤツを初めて見て、結構、綺麗で、ずっと見てたら、女にバカに
された。
チクショー。
幼稚園から帰ってゴローんちに遊びに行った。
家が隣のゴローは幼稚園でもおんなじ花組。
泣き虫で弱虫でとろくて、わがままで、どうしょーもねぇヤツだから、いっつも
俺が兄貴がわりになって守ってやんなくちゃなんねくて。
けど、いじめっこに苛められてる時とか、工作が上手く出来ねぇ時とか、助けてやると、
泣き笑いみてぇな顔で
「ヒロちゃん、ありがと」
って、笑う顔がどうしようもなく、かーいかったりすっから、ま、いっか、とか、俺は
思ってる。
雪組のタクヤとか言うヤツが、この頃、やたらとゴローの周りをうろついてて、ムチャクチャ
ムカツいたりもすっけど。
ゴローは俺のもんなんだかんな!
いつか、ぜってぇ、タクヤにもその事、思い知らせてやんだ!!
「ゴロー!!おら!遊びに行くぞぉ!!」
玄関開けてそう叫んだら、中からぱたぱたと走り出て来る足音が聞こえて。
「あ、ヒロちゃん」
当たり前みてぇに俺の名前呼んで、すぐ目の前でにこにこと笑ってんのは・・・・けど、
見た事もねぇ女の子、で。
真っ白なフリルの一杯ついたブラウスに、ふんわり広がるピンクのスカート。
唇はつやつやと濡れてるみてぇに光ってて、髪に雪みてぇにふわふわの髪飾りとか
くっつけて。
・・・・・かわいい・・・・
一瞬、まじまじとその顔、見て、ほんのちょっとだけどきどきした。
奥からバタバタと慌しげな足音がして。
「もう!逃げちゃダメじゃない?」
ゴローの姉ちゃんとその友達がわらわらとその女の子を取り囲む。
そうして、玄関でぼんやり立ってる俺に気付いて。
「あら、ヒロちゃん。丁度、良かった。上がって行きなさいよ。美味しいお菓子もジュースも
あるわよ。今日はひな祭りだから、雛ケーキもあるし」
にこにこと。
ゴローと良く似た顔で楽しそうに笑う姉ちゃんのそんな言葉に、俺はなぁんも考えずに
「え?マジで?ケーキとかあんの?食っていいの?!」
なんて食いついちまって。
「いいわよぉ。いっぱぁいあるから、ヒロちゃんも食べてきなさいよ」
姉ちゃんのおいでおいでに、俺はさっさと靴を脱いで、ゴローんちの中に上がり込んで。
・・・・・そう言えば、さっきの女の子・・・・誰だ?
何で俺の名前とか知ってんだろー、とか、ちょっと思ったけど、ケーキの方が気になって
俺はさっと姉ちゃん達の後をついてった。
「ちょ?!待てよぉ?!やだっ!!俺ぁ、ぜってぇ、んな格好なんかしねぇぞぉ!!やめろぉ!!
このクソ女どもぉ!!こらぁ!!んなもん、口に塗ったくってんじゃねぇよっ!!離せっ!!
離せぇ!!」
「もう、ヒロちゃんてば、大人しくしなさいよぉ!!ほら!!鏡見て!!可愛いわよぉvv
凄い似合ってる!」
きゃいきゃいと姉ちゃん達軍団ははしゃいだ声を上げて、散々、俺を弄びやがって。
「ゴロー!!おめぇ、何とか言いやがれっ!!なぁんで、そんな大人しく、姉ちゃん達の
言いなりになってんだぁ!!男だったら抵抗しやがれっ!!」
さっき、一瞬、かわいい、とか思って、俺をどきどきさせた女の子っつーのは、一足先に
姉ちゃん達の玩具にされてたゴローで。
「えー。だってお姉ちゃん怒らせたら後が怖いもん。それにさ、僕、結構、可愛いもん。
幼稚園のまなみちゃんより可愛いかも。僕、このままでも案外、いいかもぉ」
「ばっかやろぉ!!その気になってんじゃねぇ!!おめぇはホモかっ?!」
「ホモって何?」
「ヒロちゃんてば、子供のくせにそんな言葉、使っちゃいけません。それにこの場合は
ホモって言うよりはニューハーフよねぇ」
きゃらきゃらとけたたましい笑い声が煩ぇ!!
ちっくしょー!!
ちっくしょー!!
ちっくしょー!!
金輪際、ひな祭りの日にゴローんちになんか遊びに来ねぇからなっ!!
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